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2014.04.01発行

勝手に読書

vol,11

勝手に読書伝説

S ―最後の警官―

Special Interview

小森陽一・藤堂裕

警察機構の中に秘密裏に誕生した第3の特殊部隊NPSを中心に、凶悪犯罪と戦う特殊部隊を描く「S ―最後の警官―」。心に切り込む熱いテーマがこめられた新機軸の警察アクションコミックはどのようにして生まれたのか。原作担当の小森陽一先生、作画担当の藤堂裕先生にWインタビューを実施!

Profile

こもり・よういち/多くのマンガ原作・原案、映画原作・脚本、小説などを手掛ける。主なマンガ原作(原案)作品に「海猿」(作画:佐藤秀峰)、「トッキュー!!」(作画:久保ミツロウ)、「S ―最後の警官―」(作画:藤堂裕)ほか。

とうどう・ゆたか/2002年に「スーツマン」(小学館『ビッグコミックスペリオール増刊』掲載)でデビュー。「由良COLORS」で注目を集めたのち、2009年からは「S ―最後の警官―」(原作:小森陽一)で作画を担当。

縁の下の力持ちのように努力し続けてくれている人がいる(藤堂)

S ―最後の警官―

「プルトニウム編」で、鉛筆で正木を描いた一連のシーンはいずれも胸を打つ名シーン。

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――小森先生がキャラクターをつくるうえでもっとも手がかかったのは誰ですか?
小森 みんなそれなりに手がかかっているんですが、やっぱり正木圭吾ですかね。
――国際テロリストの。
小森 正木に関しては、「彼がどんなヤツなのかわからない」と藤堂くんから抉るような質問がよく寄せられまして、結構悩みました。彼は難しかったですね。
――作画に関しても正木は大変でしたか?
藤堂 そうですね。最初に正木が登場したときは、信念のある敵だとは思いつつも自分とは接点のない世界の人間として描いていたんですが、再登場したときはちょっと違いましたね。彼のいうこと、考えることを自分としてもあれこれ考えて、ずいぶんと小森さんと話をしました。
――正木はまたいずれ登場するだろうと思っていましたが、9巻から始まる『プルトニウム編』でああいった形で現れるとは考えていませんでした。
小森 『プルトニウム編』はね…もうなんていうものを始めてしまったのかと、これはいったいどうやったら終わるんだと途方に暮れてました(笑)。
藤堂 (笑)
――読者としては先が読めずにハラハラしてばかりでした。たとえば“どんな凶悪な犯罪者でも確保するのか、命の有無は問わず制圧するのか”、“国民を守る組織の在り方”など、『S』では、同じものを目指しているはずだけれどそこまでの道のりが違うことがいくつも読者に提示されます。『プルトニウム編』でも同様に、この国の現状や未来について「お前はどう思うのか」とつきつけられた気がしました。正直、どこまで正木に共感していいんだろうかという、ちょっとした怖さのようなものもありました。
小森 警察官の方に「現職ですが、正木に賛同します」といわれたこともあります。『プルトニウム編』はそれまで以上に、キャラも作り手である僕ら自身も互いの信念がぶつかった章でした。
藤堂 力ってなんだろうって。正木の信念が正しいように見えて、でもその正木を国家権力は確保なり制圧なりしなくてはいけない。それってどうなんだろう、どういうことなんだろうって、本当にいろいろ考えましたね。
S ―最後の警官―

犯人の手から地上にいる一號たちのそばに転がり落ちた手榴弾をSATの蘇我伊織が狙撃。

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――『プルトニウム編』終盤、鉛筆で描かれた正木の一場面はもう号泣ものでした。
小森 泣けた、とよくいわれます。
藤堂 あの場面は、担当からの的確な指示で鉛筆で描くことになったんです。
小森 英断でしたね。
藤堂 多くの人の気持ちに響くものがあったというのは、もちろんそこに至るまでの小森さんの舞台作りの巧みさっていうのも大きいと思います。新章として震災が関連するエピソードをやろう、そこに正木を登場させよう、となったときに、プルトニウムを運んでいる船をシージャックする話になるとは思ってもいませんでしたから。驚きましたし、もうたまりませんでしたね。
小森 終わってみれば、『プルトニウム編』は正木に引っ張られていたような気がします。
――『プルトニウム編』に限らず、『S』はけっしてないと言いきれない“現実”が描かれていて、そこがまた魅力であり、いろいろ考えさせられてしまうところです。
藤堂 『S』について、荒唐無稽とかいわれることがあるんですが、小森さん、全部ちゃんと取材して作ってますし、荒唐無稽なんかじゃないんですけどね。
小森 そういいたくなるくらい、一般的には知られていない世界ってことなんでしょう。僕だって、取材していなかったら想像できなかったことがたくさんありますから。作中でSATで狙撃手の蘇我伊織が犯人の手からこぼれた手榴弾を撃ってはじく場面がありますが、あれだってSATは簡単にやりますからね。一號みたいに壁をぶち抜くのだって、本当にあったことですし。
――そうなんですか!?
藤堂 笑うしかないような、現実味のない話、結構聞きますもんね。
小森 SATのような組織って、知られていない分、ドラマや映画などで描かれる際はあくまでもメインに対してのスパイス的な、舞台装置のひとつのように登場することが多かったと思うのですが、ある意味『S』では正しい姿を描けているんじゃないかと思います。
藤堂 SATの人たちが実弾で練習しているなんて、まあ普通そんなこと知らないじゃないですか。でもテロなり何か非常事態が起きたとき、普段は表に出ることなく命がけで訓練をしているような人たちが危機的状況の中に出て行ってくれるわけで。僕らの平和な暮らしの裏で、縁の下の力持ちのように努力し続けてくれている人らがいる。そういう人たちを描くことで読んでくれた人と、それからそうやって努力してくれてる人たちに何かが届けばいいなと思いますね。

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小森さんのストーリーを絵にするのが楽しい(藤堂)

作品の着地点のイメージはあります(小森)

S ―最後の警官― コミックス情報

  • S ―最後の警官―(1)を読む
  • S ―最後の警官―(2)を読む
  • S ―最後の警官―(3)を読む
  • S ―最後の警官―(4)を読む
  • S ―最後の警官―(5)を読む
  • S ―最後の警官―(6)を読む

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©小森陽一・藤堂裕/小学館

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