ひと口に“BL”といってもそのジャンルは数知れず。キュンとする純愛を謳った作品もあれば、禁断の関係に悩むものも。そんな中、今回注目したのは、“ダークでシリアス”な作品たち。まるで昼ドラのような… いや、昼ドラ以上にドロドロとした展開にあなたは耐えられる? …しんどいのにやめられない。しんどいからこそやめられない! そんな珠玉なシリアス系作品を8つご紹介しましょう。
- 少年の復讐劇、結末は救い? それとも━━
- 賛否両論が巻き起こる、全てが衝撃の禁断愛
- 本当にヤバい奴はいったい誰? 兄弟の近親相姦BL
- この行き詰まったDVの世界から救ってくれたのは…
- 鬼畜監禁&調教の大定番は実は深い作品?
- 乱歩や正史も真っ青な、旧家で巻き起こるエログロ展開がヤバッ!
- 精神分析医が連続殺人犯にじわじわ追いつめられる衝撃官能作
しんどい系の作品に復讐劇はつきもの。そんな『復讐劇』からおススメしたいのは「アンダースキン」。読了後、悲しみや切ない気持ちでいっぱいになる、受けと攻めの重たい関係性をとくとご覧あれ。
物語のキーパーソンは受けの少年・晃。晃はとある議員の艶事の相手をしつつ、その裏では議員秘書の弘瀬とも関係を持っています。え、物凄く背徳感のある三角関係だって? 問題はそこではなく(いや事実、背徳感たっぷりですけども)、なぜ2人と関係を持ってしまったかということ。じつは晃が相手をしている議員は、かつて自分の父親を自殺へと追い込んだ憎い相手。復讐のために愛人となって近づき、その思惑に気づいた弘瀬をもまんまとたらし込んだのです。ただ晃の狙いに気づいていながら、なぜ弘瀬は彼を受け入れたのか。ここも本作を楽しむ1つのポイント!
また物語が進むにつれて、次第に晃の中で『ある葛藤』が生まれるように。ただでさえしんどい設定にも関わらず、後半にかけてじわじわとしんどさがヒートアップしていきます。果たして物語の結末を『救い」ととるか『切ない」ととるか。決めるのはあなた次第。
続いてご紹介するのは、発表当時から問題作と話題を集めた、衝撃の禁断愛「にいちゃん」。何が衝撃かと言うと、言ってしまえば『全部』です(笑)。登場人物たちの歪んだ愛情や異常性、二転三転するストーリー展開など、とにかく何もかもが衝撃の連続。加えてラストはなんとも後味の悪い終わり方をするので、しんどさレベルもMAX!
全てのベースにあるのは主人公・ゆいが慕う近所のにいちゃん・景が色々とコジらせすぎてる点。物語はゆいの小学生時代から始まるのですが、隙あらば景はゆいの体を触ろうとしたり、何かにつけてキスを求めてきたり…。そう、景は所謂“ショタコン(小児性愛者)”なのです。
本作の面白いところは、なぜ彼がそのような嗜好に走ったのか、しっかりバックグラウンドを描いているところ。そうして単なる『異常性愛者の話』に留まらず、負の連鎖性や共依存感情、心の歪み等、現代社会が抱えるほの暗い問題について、読者に提起しているように感じられます。話が進むにつれ、徐々にみえてくるゆいの景に対する異常な執着心も背筋がゾッとし、もう『普通』とは何かが分からない状態に…。
内容や結末は賛否両論&好き嫌いがはっきりと分かれる作品ではありますが、人物造形、構成、ストーリーの運び、テーマ性等『物語』としてとても優れた作品なので、一読の価値はありです。
異常な執着心といえば、「泥中の蓮」に登場する弟もかなりヤバい奴。本作は、優等生な弟・秋生とウリセンの兄・元春の近親相姦を描いた作品です。
てっきり体を売っている元春が弟にご執心なのと思いきや、実際はその真逆。成績優秀で真面目な秋生は兄が大好きで仕方ありません。しかもその愛情もかなり独特。たとえば元春がウリをやっていることに対しては反応を示さないのに、彼が就職してきちんとした道を進もうとすると途端に不満げ。ウリ相手との肉体関係はいくらでも許しますが、元春と真剣に交際しようとする相手には殺意すら向けます。
その理由は元春が汚れれば汚れるほど、彼の側にいられるのは弟の自分だけと思っているから。そんな想いをついに爆発させる描写は、なかなか狂っていて良き(笑)。「もういいだろ」とけん制する元春に対し、頬を赤らめながら「何で まだするけど」と発言する秋生にはもはや狂気すら感じる。
そして中でも注目してほしいのが、7ページに渡るエピローグ。物語のラストには“実は…”な展開が用意されており、読んだ時には思わず「えええええ!?」と叫びそうになるはず。本当にヤバいのは秋生? それとも…。
この行き詰まったDVの世界から救ってくれたのは…
錆びた夜でも恋は囁く しんどさレベル:★★★★☆
おげれつたなか
続いてご紹介する「錆びた夜でも恋は囁く」は、痛いの覚悟の恋愛を描いたDV系切な物語。暴力シーンや血が苦手な人は注意しよう。
物語の主人公は、恋人のかんちゃんと付き合う弓。恋人といっても2人のラブラブシーンはほぼ皆無で、弓はことあるごとにかんちゃんから暴力を振るわれていました。時に鼻から大量の血が流れているにも関わらず、そのまま後ろから挿入されるシーンも。
ここまで聞くとかんちゃんがただの最低野郎に感じますが、実は彼は彼で苦しんでいたりするから余計にしんどい。物語の節々には仲睦まじかった頃の姿もちらほら描かれていて、『かんちゃんって最低」で終わらないのが本作の憎いところ。いっそ彼が救いようのないクソ野郎だったら、ここまで切なく感じなかったのに…。
そんな傷ついた弓を癒してくれるのが、弓の中学時代の同級生・真山。一途で誠実な彼との再会、そして心が通っていく姿にはぎゅん!となります。また真山がカワイイんです!特にベッドの上でいっぱいいっぱいになり、はわわわする彼の姿に微笑ましさ全開です!しんどい展開の先に癒しがあると思えば、幾分気持ちもラクになるはず。ちなみにかんちゃんに焦点をあてた、「恋愛ルビの正しいふりかた」「はだける怪物(上下)」もあわせて読んでほしいです!
鬼畜監禁&調教の大定番は実は深い作品?
性の劇薬~淫らに開発される身体~ しんどさレベル:★★☆☆☆
水田ゆき
電子コミック累計販売数100万DLを突破した、鬼畜監禁&調教の大定番。昨年には実写映画化も果たしたので、何となくその名前を聞いたことのある人も多いはずです。ただしそのインパクトに押し負けてまだ読んでない人は、はっきり言ってもったいない! テーマがテーマだけに鬼畜性が先行しがちですが、実は『生」の意味について考えさせられる深~い作品なのです。
まずどうしても一番目がいってしまうのが、タイトルのインパクトを裏切らない過激な性描写。物語は人生に絶望したサラリーマン・桂木誠の監禁シーンから始まるのですが、彼に強烈な“性”を与える謎の男・余田龍二の調教がエグすぎる。過剰なまでに快楽を与えられた桂木は、もはや叫びっぱなし。「あれ、気持ちいいんだよね? 拷問じゃないよね?」と疑問に思うレベルです。
とはいえ余田の常軌を逸した行動にはきちんとした理由があり、同時に命について深く考えさせられるから驚き。しかも物語の結末はまさかのハッピーエンドに近いため、エロさえ平気なら比較的読みやすい作品と言えるかも。果たして余田が性を通して伝えたかったこととは━━。ぜひそのメッセージを受け取ってください。
複雑な人間模様によってじわじわと重たいしんどさを味わうなら「蟷螂の檻」。まるで初期の金田一耕助の世界のような旧家のどろどろと歪な人間関係を主軸に、読めども読めども登場人物たちが一向に幸せになりません。
地方の名家・當間本家には2人の息子がいるのですが、1人は正妻の子(次男・育郎)、1人は妾の子(長男・蘭蔵)と、この兄弟関係を見ただけで複雑な事情を抱えていることは想像に容易くないはず。しかも蘭蔵は発達障碍者ということから20年間家の牢で育てられ、なんと父親の艶事の相手をさせられていたという…。対して育郎も使用人の深山典彦に体を開発されているんですが、その深山はかつて育郎たちの母親と肉体関係を結んでいたという━━いや~ドロドロもいいところですよ、この一族。まさに江戸川乱歩や横溝正史のような『エログロ』な感じです。
そんな中でもやっぱり一番心揺さぶられるのは育郎。幼い頃から跡継ぎとして育てられてきたと思いきや、実態はただの事業代理人。自分の存在意義を懸命に見出そうとするも、次から次へと衝撃の展開が育郎を襲い、もう踏んだり蹴ったりもいいとこ!体はすごいことになっちゃったけど心は純粋なままの育郎は、果たして幸せになれるのか…。
精神分析医が連続殺人犯にじわじわ追いつめられる衝撃官能作
In These Words しんどさレベル:★★★★
Guilt|Pleasure
最後は、精神分析医×連続殺人犯による衝撃の官能作品をご紹介しましょう。作者はアメリカ・アジアのコミックス業界で活躍中の人気作家・咎井淳先生が作画、Narcissus先生が原作を担当するユニット『Guilt|Pleasure』。さすがアメコミ出身というだけあって登場人物たちの骨格や筋肉がとにかくお美しい。『筋肉大好き』『骨格フェチ』というだけでも、本作を見る価値が十分あります!
主人公の精神分析医・浅野克哉は、ある日連続殺人犯からプロファイリングの依頼を逆指名され、その日を境に顔の見えない男に監禁・凌辱される悪夢にとりつかれます。精神分析医が知的な連続殺人犯にじわじわと追い詰められていく様はスリリングで、クライムサスペンスの要素も大きい本作。正直1巻だけでは「なぜそんな夢を見るの?」「克哉の身にいったい何が?」などの疑問が多く残るんですが、読み進める内に徐々にその謎が物語の冒頭へと繋がっていき、「あ、そういうこと!」というアハ体験にも似た感覚が味わえます。ただ、やっぱり凌辱シーンは鬼畜な感じで、殺害場面もかなり猟奇的。美しい作画のおかげで嫌悪感こそないものの、やっぱりそうした残酷な描写は、キツい人にはキツいかも。