結婚してたった１年足らずで浮気され、離婚したいと言われてしまった早梅。怒って家を飛び出した途端に有り金すべてを盗まれて、ホームレス生活を送る羽目になってしまいます。
夫の顔など見たくないと家へ戻らず意地を張るのですが、お腹はすくし公園のダンボールハウスは心もとない限り。無職のアラサー27歳が最大のピンチに陥った上、かつて彼女にやりこめられた不良金持ち高校生・壱成からは仕返しの嫌がらせを受けるという踏んだり蹴ったりの状況……いきなりかなり詰んじゃってますよね！？
でも夫に捨てられ気持ちはどん底のはずなのに、決して折れない早梅がとにかくカッコいいのです。無理難題を押し付けてくる壱成の理不尽さが憎たらしければ憎たらしいほど、媚びない彼女の心の逞しさが際立って見えてきます。次から次へと押し寄せる世間の荒波を、必死で乗り越える早梅を全力で推していきたい！

汚部屋に1人暮らす地味目OL板井さん26歳。人並みにモテたいし女子力を上げたいのはやまやまなのですが、何故か常に異様なほどの不器用さを発揮してしまうため上手くいきません。きっちりした自炊生活なんて夢のまた夢、ダイエットは思いつくそばから毎度失敗、ストッキングはすぐ電線するし、陰キャが合コンなんて上手くいくはずもなく……。
アラサーOLあるあるな残念さがやけにリアルで、なんだか他人事とは思えない板井さんの独身ライフ。こんなにも生きにくい人生をマイペースに乗り越えていく彼女を見ていると、『もっとズボラに生きてもいいのかも？』と妙な安心感を覚えてしまいます。
肩の力を抜いて読みやすい1話完結スタイルなので、スキマ時間のリフレッシュにもオススメですよ。

職場のセクハラにうんざりしながらも、内気な性格から嫌だと言い出せずにいた倫。偶然助けてくれた見知らぬ美少女・諒に憧れた彼女は一念発起して仕事を辞め、諒が働くレズ風俗の世界へと飛び込むのでした。彼女たちの仕事は、柔らかで温かい身体と言葉で同じ女性のお客さんを喜ばせること。恋人どうしのような甘いデートをしたり、時にはベッドで抱き合うことで、相手の心身を包みこみ癒やす存在なのでした。
なにしろ倫自身がそうやって人生ごと救われた1人なだけに、仕事へかける情熱も人一倍。時には空回りすることもあるけれど、新人なりに心を砕いてお客さんに素敵な時間を過ごしてもらおうといつも全力投球なのです。
同性向けの風俗という少々特殊な業界のお話ではあるのですが、傷やわだかまりを抱えた女性を理解し受け入れようとする倫の真剣な姿勢には、心を揺り動かされずにはいられません。

同棲中の彼の望みに従って、25歳になっても地味なノーメイクのままでいる美紅。そんな彼女が女性の装いも男性の姿も自在に楽しむ美少年・イヴとの出会いをきっかけに、勇気を出して好きな色のリップをつけてみたら――褒めるどころか頭からメイク落としをぶちまける暴挙に出るとは、さすがに予想しなかった……この彼氏、清々しいほどのモラハラ野郎じゃないですか！？
そんな読者の苛立ちとイヴの心配をよそに、長年頼り切っていた彼氏から離れる勇気がなかなか持てない美紅。自分らしいお洒落をしたいという本心と、ますます彼女を束縛しようとする彼の間で苦しむことになってしまいます。飼いならされ心を抑圧されていたのだと気付き出した美紅のゆっくりとした歩みは重苦しいものですが、どこかで共感してしまう女性も多いはず。
いつか彼女が心のままに生きることができるようになるのかが気になって、緊迫したストーリーから目が離せません！

前作「ハッピー・マニア」の若き日々から十数年。マジメな夫・タカハシと結婚した主婦のカヨコに訪れたのは青天の霹靂。タカハシが若い女に本気で惚れ込んでしまった挙げ句、離婚してほしいと言うのだ――。
かつては恋の暴走で周囲をさんざん振り回したカヨコが、なんと今度は振り回される側に。浮気の衝撃だけでも心の容量いっぱいのところに友人夫婦のダブル不倫やら浮気調査の尾行やら、さらなるトラブルに巻き込まれてしまいます。状況はあまりに気の毒なのですが、40代半ばとなったカヨコのぶっちゃけツッコミトークはオバサン的な開き直りも加わって、ますます冴え渡るばかり。
前作からおなじみの周辺キャラたちも環境は変われど本性はお変わりなさすぎて、懐かしくもおかしくてたまりません。十数年やそこらで人間そんなに変わるわけないのだと、不思議な達観に到達してしまいそう。大ピンチなのに悩むヒマなく駆け回るカヨコと一緒に、もう一度ハッピーな人生を探してみませんか。

28歳になってもオタ活に夢中なズボラOLのツカ子。周囲の結婚ラッシュに焦り相談所に駆け込んだはいいものの、何故か死神の婚活コンシェルジュ・ニシカミと契約する羽目に。文字通り命をかけて婚活しなければ、1年後に命を奪われてしまうという――。
不運な彼女にとってはかなり理不尽なファンタジー展開で始まる物語ですが、婚活初心者が陥りがちなミスや勘違いをニシカミが嫌味を交えつつも詳しく解説してくれるので、婚活市場の描写はかなりのリアル寄りであることが分かります。『その場のニーズを読み最善の一手を選ぶ』ための観察力と思考力は、婚活パーティのみならず人生のあらゆる場面で役立つ能力。
婚活中の人はもちろん、あまり関わりのない人も一緒にツカ子の運命を見守りながら、この必携スキルを楽しく鋭く磨いてみませんか。

今や4世代が暮らす我が家に居場所がないと悟って家出した高齢ベテラン作家・幸田まり子。
お年寄りのホームレス主人公という、物語の始まりは絶望的すぎてショックを受けますが、それも束の間のことなのでご安心を。早速ネットカフェ生活を全力でエンジョイしてみたり、昔好きだった男性と束の間の同棲生活を送ったり。捨て猫を家族にしたと思ったらネトゲにハマり、ついにはバズりまくりの人気ウェブ雑誌を創刊してしまったまり子女史。あの冒頭は、傘寿――80歳からの大冒険の始まりだったのです。
歳を取ることの残酷さと高齢者の心細さを正面から見据え現実的に描く一方で、無邪気な好奇心と豊かな感受性をいつまでも失わない彼女の魅力は話が進むごとに輝くばかり。
『いくつになっても勇気を出すことに遅すぎることはない』と高らかに歌い上げながら、幅広い世代の読者の心を揺さぶ る名作なのです。