プロフィール
島﨑信長(しまざき・のぶなが)
声優/青二プロダクション所属。宮城県出身。2009年に『戦場のヴァルキュリア』のヘルバート・ニールセン役でデビュー。出演作に、『ダイヤのA』、『Free!』、『寄生獣 セイの格率』など。
私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー
- 『テニスの王子様』が好きでテニス部に入りました
-
島﨑 僕が一番はじめにどハマりしたのは『ハリー・ポッターと賢者の石』(J・K・ローリング)だと思います。小学校の何年生だったかまでは覚えていないんですが、映画化されるよりも前だったのは確かです。それまでは休み時間といえばすぐに外へ飛び出すような子どもだったのに、ひたすら『ハリー・ポッター』を読んでいました。とにかく続きが気になって仕方なくて、のめり込むように読んでいた記憶があります。マンガじゃないから学校でも堂々と読めたんですよね。ただ『ハリー・ポッター』を除くと、小学生の頃はまだそんなに活字の本は読んでいませんでした。それよりもゲームやアニメ、マンガに夢中でしたね。
島﨑 マンガは気がついたら読んでいたという感じで、最初は『コロコロコミック』や『コミックボンボン』だったと思います。子どもの頃は、週末になると父親が決まって夕食後にレンタルビデオ屋へ連れていってくれたんですが、そのお店は本屋が併設されていて、いつもそこでマンガを買ってもらっていました。
島﨑 『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)に『SLAM DUNK』(井上雄彦)、『DRAGON BALL』(鳥山明)、『DRAGON QUEST ダイの大冒険』(原作:三条陸 作画:稲田浩司)、『封神演義』(藤崎竜)…。当時、話題だった作品は一通り読みましたし、全部好きでした。子どもの頃は本当に雑多に読み漁っていたので、コレ!と何か特定の作品を挙げるのは難しいです。
――いま挙げていただいたタイトルはすべて『週刊少年ジャンプ』の作品ですが、『コロコロコミック』や『コミックボンボン』を卒業したあとは、やはり『ジャンプ』に?
島﨑 『幽☆遊☆白書』とかはコミックスで読んでいたと思います。『ジャンプ』を読むようになったのは中学に入ってからで、『ONE PIECE』(尾田栄一郎)や『テニスの王子様』(許斐剛)は雑誌で連載を追いかけていました。『テニスの王子様』が好きで、中学ではテニス部に入ったんです(笑)。
――『テニスの王子様』はチームものということでキャラクターも多いですが、誰かお気に入りのキャラクターはいましたか?
島﨑 氷帝学園の跡部が好きでした。みんなが“無我の境地”という覚醒技を使い始めたときに、その程度のことは別に技を使わなくてもできるといって、素で強いところがかっこいいな、と。みんなが能力を使う中で、使わないキャラがいるとかっこいいですよね。でも、中学のときも『ジャンプ』しか読んでいなかったわけではないんです。例えば『少年ガンガン』なども読んでいて、『ハーメルンのバイオリン弾き』(渡辺道明)が好きでした。
――中学生になると、『ハリー・ポッター』以外の小説を読むことも?
島﨑 中学生で、ゲーム系の文庫に手を出すようになりました。ゲームの『テイルズ オブ エターニア』が好きだったんですが、どうやら小説も出ているらしいと知りまして。『テイルズ オブ』シリーズの小説はかなり読みましたね。『テイルズ オブ デスティニー』のリオン・マグナスがすごく好きでした。
――そうした流れでオリジナルのライトノベルも読むようになったのですか?
島﨑 ライトノベルにハマったのは高校生になってからです。ちょうどアニメ化をきっかけに『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流)が流行った時期で、例に漏れず僕もアニメから入って『涼宮ハルヒ』シリーズを読みました。それからはもう、どっぷり。本屋さんのラノベコーナーでおもしろそうだと思ったものを端から買う勢いで読んでいきました。マンガと違って読むのに時間がかかるぶん…といっても僕は早いほうかもしれませんが(笑)、ラノベは作品世界に没入しやすかったんです。それに文体などの問題もあって、僕はノベルというのはマンガ以上に作者さんとの相性が出ると思うんですよ。ラノベを読むようになって、初めて作者さんを追いかけて作品を読むようになりました。
――具体的にはどなたの作品がお好きだったのでしょう。
島﨑 それこそ『涼宮ハルヒ』シリーズの谷川流さんもそうですが、ノベルから入って最初にハマった方という意味で印象深いのは、橋本紡さんです。はじめに読んだ『リバーズ・エンド』がとにかくおもしろくて! アニメにもなった『半分の月がのぼる空』など、ほかにもいろいろありますけど、橋本紡さんの作品は、キャラももちろん立ってるんですが、そこばかり押し出すのではなく、お話がすごくしっかりしているんですよね。
――ラノベにハマってマンガとは少し距離ができましたか?
島﨑 いいえ、全然(笑)。マンガも大好きで、アニメも大好きで、ゲームも大好きなままでした(笑)。
- 役者視点だけでなく、ファンの視点も意識してます
-
――お仕事的にもマンガやラノベ、ゲームなどは現在も身近だと思いますが、そうした作品が原作のアニメに出演されるときは、事前に原作を読み込むほうですか?
島﨑 僕は読みますね。いつでも一ファンとして普通に楽しんでいます(笑)。そのことに関しては、本当にマンガやラノベが好きでよかったなと思うんですよ。もともと作品を読んでいるファンの人たちが、その作品のどんなところをおもしろいと感じていて、どこを大切にしてほしいと思っているかがわかるので、芝居や演出を考える役者としての視点だけでなく、ファンとしての視点も意識しながら読んでいます。
――マンガやラノベはアニメだけでなくドラマCDになることも多いですが、映像媒体であるアニメと絵のないドラマCDとで、役づくりやお芝居に違いはありますか?
島﨑 役づくりという意味では、絵があろうがなかろうが根本的には変わりません。マイク前にそのキャラとして立つのは、どちらも一緒なので。ただ、お芝居の仕方については少し違いますね。ドラマCDは映像による補足がないので、その場の状況を声でより具体的に説明しなければならない、というのはあります。これは以前、僕が反省したことでもあるんですけど。役を演じるときって、心情の掘り下げは当然必要なんですが、それ以外に物理的な空間認識が必要なんです。たとえば、耳元で喋っているのに、相手が遠くにいるかのように大声で叫んだらおかしいですよね。で、それは単純な距離の問題だけではなく、キャラクターの動作にも同じことがいえまして。リアルだと、人は振り向くときにいちいち声なんて出しませんよね。だけど、ドラマCDでは「はっ」と声を入れます。そうしなければ聴いている人にキャラクターの動きが伝わらないから。
島﨑 さらにいうと、そうした違いは感情面でもいえるんですよ。アニメだと絵でもキャラクターがお芝居をしてくれるので、そこまでわかりやすく喜怒哀楽を声で説明する必要はないんですね。なかには絵との相乗効果でわざとデフォルメしてダイナミックにやる場合もありますけど。
僕は初めて主人公をやらせていただいたアニメが、どちらかというと実写寄りのお芝居を求められる作品で、その現場で生っぽく演じることのおもしろさを知ったために、そういう演技をやりたいという思いに傾倒した時期があったんです。そうしたら、ドラマCDならではの演出に、抵抗ではないですけど、疑問のようなものを持ってしまって。でも結局、僕が思っていた「自然な演技」だと、ドラマCDを聴いている人には説明不足だったんです。「自然な演技」といっても作品ごとに「自然」は違うし、「普遍的なOKなんてない」ということに、ドラマCDの仕事をきっかけに気づきました。
――なるほど、それは様々な現場を経験されたからこそ気づけたことなのでしょうね。島﨑さんはいまもマンガやラノベがお好きだそうですが、もともと愛読していた作品がアニメ化し、偶然出演することになったという経験はありますか?
島﨑 中高生の頃にアニメを見たり本を読んだりしていたなかでは、『灼眼のシャナ』(高橋弥七郎)でしょうか。アニメの第3期に出演できることになったときは、とてもびっくりしました。声優になるなんてまったく考えていないときから好きだった作品なので、「わお!」って思いましたね(笑)。あと、僕はずっとTYPE-MOONさんの作品が好きで、奈須きのこさんの『空の境界』なども読んでいたので、『Fate/Zero』に出られたときは感動しました。
声優になってから好きになった作品だと、アニメ化したときに自分が関われなくても、最初から「そういうこともあるよね」とわかっているから大丈夫なんですが、声優になる前から好きだった作品がアニメ化して自分が出演できないと、心の準備ができていないせいか、悔しいというか、「あ…」って思います(笑)。
――では、お仕事を始めてから出会ったマンガで特に印象深い作品を教えてください。
島﨑 この仕事に就いてから一番ハマった作品というと、『ラブライブ!』だからなー(笑)。プロジェクトの中の企画としてマンガも出てますけど…。考えてみると、声優の仕事を始めてから少しだけ純粋にハマりづらくなったかもしれません。それでもほかの声優さんに比べれば、かなりハマリやすい人間であることは間違いありませんが(笑)。仕事を始めてから出会った作品ではないんですけど、最近読み直して、改めてハマったのは『寄生獣』(岩明均)です。
――読み直したのはアニメのオーディションのためですか?
島﨑 そうです。昔読んだときもおもしろいと思った記憶はあったんですが、大人になって改めて読むと、感じることがまったく違いました。やっぱりすごくおもしろいんですが、何より本当に素晴らしい作品なんですよ。こんなにすごい作品のオーディションを受けるんだ、と思っただけでプレッシャーを感じるくらい、自分の中で衝撃的でした。だから主人公の泉新一役に決まったときは、めちゃくちゃうれしかったです。本当に名作だなと思ったので。あまりにおもしろくて、オーディション前に全巻一気に読みましたから。
島﨑 それが『寄生獣 セイの格率』のオーディションは、物語の初期の新一から最後の新一まで全部やったんです。
島﨑 そうですね。注目度も高かったですし、スタッフの熱意もヒシヒシと感じました。『寄生獣 セイの格率』のオーディションで初めて、オーディションのときからこのアニメの命運の一端を自分が背負ってるんだ、っていうくらいの気持ちで演じることができたんです。
――そんな思いが通じたからこそ、役を射止められたのかもしれませんね。ラノベではいかがですか?
島﨑 これも仕事で関わっている作品になってしまうんですが、初めてラノベ原作のアニメで主人公をやらせてもらった『デート・ア・ライブ』(橘公司)です。もともとマンガやラノベが好きだということもあって、僕はすぐに自分が関わった作品のファンになってしまうんですよね。それに『デート・ア・ライブ』は僕のラノベ好きが、現場などですごく活きた作品でもあるんです(笑)。雑誌などのPRやイベントのときも、僕が演じ手としてだけじゃなく、ファンの気持ちになって話したりもしていたので、原作者の橘先生にも喜んでいただけて、それもすごくうれしかったです。『デート・ア・ライブ』は劇場版も決まっていますし、長く続けさせていただいている作品なので、そういう意味でも思い出深いですね。
- 知的探究心が芽生えたときには童話を
-
――現在、下野紘さんと『花とゆめ』のラジオ番組も担当されていて、何かと少女マンガに触れる機会も多いと思います。もともとプライベートでも少女マンガを読んでいらっしゃったのですか?
島﨑 けっこう読んでいました。たぶん初めて触れたのはアニメで、『カードキャプターさくら』(原作:CLAMP)が最初でした。そのあと、同じくアニメで『学園アリス』(原作:樋口橘)を見て、それから少女マンガを読むようになった気がします。たまたま本屋さんで『花ざかりの君たちへ』(中条比紗也)のお試し版を見て、おもしろい!と思って完全版のコミックスを一気読みしたりして。
島﨑 ドラマになっていることは知らなかったんですけど、そうかもしれません。あとはこれもドラマ化しましたけど、『オトメン(乙男)』(菅野文)も読んでいましたし…思えば『花とゆめ』の作品が多いですね。いまはその『花とゆめ』のラジオだったり、アニメでも『それでも世界は美しい』(椎名橙)でメインの役をやらせていただいたりして、以前よりもっと少女マンガを読むようになりました。もはや少女マンガ家さんといっていいのかわからないですけど、羽海野チカさんは『ハチミツとクローバー』も『3月のライオン』も好きです。
――昔愛読していた作品を描かれていたマンガ家さんがラジオのゲストでいらっしゃった、ということは?
島﨑 いま連載されている先生には何人かお会いできました。それとラジオとは関係ないんですが、今度アニメで出演させていただく『俺物語!!』(アルコ、河原和音)の先生方と、先日お話しさせていただく機会がありまして。作品やキャラクターに対して自分なりに思っていることを伝えさせていただいたんですが、先生方の中にあるイメージともばっちりマッチしていることがわかって、安心しましたし、すごく楽しかったです。おふたりともアフレコにもいらしてくださっているんですよ。
島﨑 だから毎回とはいかないんですけど、それでも何度かいらしてくださっています。『それでも世界は美しい』の椎名先生も、『デート・ア・ライブ』の橘先生もよくいらしてくださっていました。ファンタジー系の作品は特殊な造語も多いので、現場で直接先生にイントネーションなどを確認できるのは、すごくありがたいです。
――確かに、アクセント辞典には載ってないですからね(笑)。
島﨑 そうなんです(笑)。それにやっぱり原作者の先生がいらしてくださると、それだけで現場の士気が上がります。
――では、ここで本企画恒例の質問を。この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいています。島﨑さんも「○○」にお好きなテーマを入れて本を紹介していただけますか?
島﨑 高校生くらいのときに童話に興味があって、図書館に通っていた時期があるんです。きっかけは『本当は恐ろしいグリム童話』(桐生操)を読んだことだったんですが、あれはあくまで「そういう解釈もできるよ」という本じゃないですか。でも調べたら、童話って本当に何回も改訂されているんですよね。時代的な問題もあったりして、どんどん柔らかい表現になってきているんです。そういう違いを調べるのがおもしろくて。最近のものはだいたい教訓めいたオチがついていますけど、初版は現代の童話というイメージには遠くシュールだったり退廃的だったり、「あれ? なんだったの?」っていう投げっぱなしの話もありました。だけど、それだけに余計想像力を掻き立てられたりもして。もしかしたら、いま読めばまた違う感想を持つかもしれないとも思うんですね。なので、知的探究心が芽生えたときには童話を読む。これ、おすすめです。
――初版を探すのはなかなか大変そうですが、読み比べできたらとてもおもしろそうです。それでは最後に、島﨑さんにとっての読書の魅力を教えてください。
島﨑 純粋に、読書は言葉や文章を楽しむものだと思います。大笑いする楽しさや泣いちゃうような楽しさ、のめり込んで心がヒリヒリするような楽しさ、哲学的なことを考えてしまう楽しさなど、「楽しさ」にもいろいろありますが、全部ひっくるめて「楽しい」。これはアニメも同じだと思いますけど、そのとき感じたこと、考えたことが、そのまま心に残るんですよね。それは人生の彩にもなるので、自分なりの楽しみ方を見つければ、それだけでいいんじゃないかと思います。
――これからも楽しい読書ライフをお過ごしください。本日はありがとうございました。
-
テニスの王子様 1
作者:許斐剛 出版社:集英社
-
テニスの名門校・青春学園中等部に入学してきた越前リョーマ。アメリカJr.大会4連続優勝の経歴を持ち、天才少年と呼ばれるリョーマだったが、青学テニス部には、1年生は夏まで大会に出られない規則があり…!?
-
半分の月がのぼる空 1
作者:橋本紡 出版社:文藝春秋
-
これぞライトノベルの金字塔! 2003年、電撃文庫より刊行が開始されたこの『半月』シリーズは、またたく間にライトノベルファンにとどまらない広範な読者を獲得しました。そして2013年、装いも新たに刊行された文春文庫全4巻は、主人公たちの台詞を物語の舞台、伊勢弁に改めたリメイク版です。肝炎で入院中の高校生・戎崎裕一は、エロ本集めが趣味の多田さんや元ヤンキーの看護師・亜希子さんに翻弄される日々の中で、同い年の秋庭里香に出会う。人形のように美しく、本を愛し、そして女王様のようにワガママな里香は、難しい病気をかかえていた――。ドラマ、映画、漫画、アニメになったボーイ・ミーツ・ガールの聖典をぜひ電子書籍で!
-
寄生獣(1)
作者:岩明均 出版社:講談社
-
シンイチ…『悪魔』というのを本で調べたが…いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ…他の動物の頭に寄生して神経を支配する寄生生物。高校生・新一と、彼の右手に誤って寄生したミギーは互いの命を守るため、人間を食べる他の寄生生物との戦いを始めた。!
島﨑信長さんからのメッセージ
みなさん、自分の「好き」っていう気持ちを大事にしてください。本に限らず人は他人の評価を気にしがちですけど、僕は自分の考えを大切にしてほしいなと思います。時には世間を意識したり、それに合わせるのが必要なこともあります。でも、自分の感じたことはあなただけの宝物であり、あなたの心を豊かにしてくれるものです。だから、みなさん自分のペースで、自分なりに読書を楽しんでください。