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勝手に読書伝説Vol.23.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.23.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
櫻井孝宏(さくらい・たかひろ)
声優/インテンション所属。愛知県出身。幅広いキャラクターを演じ分け、長年一線で活躍し続ける実力派人気声優。熱血高校野球アニメ『ダイヤのA』では、天才キャッチャー・御幸一也役のほか、人気テニスアニメ『ベイビーステップ』の難波江優役などに出演中。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

“脳みそをくすぐられる”ような感覚が好きなんです
――櫻井さんが本気で人に薦めたい作品を教えてください。
櫻井 僕は職業柄、原作としてマンガを読むことが多いのですが、そんな中で仕事に関係なく、能動的に単行本を買って読んでいるのが、花沢健吾先生が描くゾンビ系マンガ『アイアムアヒーロー』です。現在も継続的に読んでいる作品の1つで、ちょっとエグいというか、残酷的な描写もある作品なんですけど、こういうテイストの作品は結構好きです。
――『アイアムアヒーロー』の魅力はどこにありますか?
櫻井 残酷的な描写がありながらも、ちょっとギャグっぽいところもあって、怖さの中にユーモアがある。それでいて大きな謎があるので、結末がまったく想像できなくて、僕の好奇心をくすぐってくれます。主人公は“ダメ男”なのですが、銃が扱えるという特技を持っていて、たまたま“サバイバルの世界”になったことで生き残ってしまう。局地的には活躍しているんですが、世界を救えるようなすごい力は持っていないから、泣き言を漏らしながら、それでも周りの人を救っていく姿がすごくかっこいいなって思います。また、きれいごとだけじゃなくて、性描写などもしっかりありますし、風刺めいたメッセージを感じさせる部分もあるから、“脳みそをくすぐられる”というような感覚で読めるので好きですね。
――なかでも特に好きなシーンはありますか?
櫻井 物語のごく序盤で、主人公の恋人がひょう変しちゃうんですが、冒頭からクライマックスみたいなあの展開には完全に心をつかまれてしまいましたね。初めは何が起っているのか分からないので一生懸命に読み解こうとするんですが、簡単には分からせてもらえない。読み進めていって、「ヒントになるのかな?」と思うキャラクターが出てきても、逆に謎が深まったり…。そういう惑わされる感じ、振り回される感じがいいですね。
――ストーリーに引き込まれる作品が好きなんですか?
櫻井 そうですね。無秩序にノリで描いてるような気もしますし、想像がつかない深いメッセージが隠されているような気もします。『20世紀少年』や『ドラゴンヘッド』なども自分の中では近いイメージですが、終末的な世界観の作品には惹かれることが多いです。僕が楽観的なので、逆にこういう作品に興味が沸くのかもしれないですね。
『自殺島』は人生を考えるきっかけになった
――仕事がきっかけでハマった作品などもあるのでしょうか?
櫻井 「生きる」というテーマで様々な分野の人がインタビューに答えて、読者へメッセージを贈るといったお仕事をいただいたことがあって、そのお仕事がきっかけで『自殺島』を読みました。“もしかしたら、どこかでこんなことがあるのかもしれないな”と思ってしまうような生々しさというか、妙なリアリティーがあって、あっという間に読破してしまいましたね。「生きる」ということについて考えさせられ、先を見つめてみようかなという気持ちになれたんですよ。楽観的に生きている自分に、“人生についてちょっと考えてもいいんじゃない?”と問い掛けられた気持ちになった作品でしたね。
――『自殺島』の魅力はどこにあると考えますか?
櫻井 自殺をしようとした人達が集められた島を舞台にしたお話なのですが、そんな中でも生きようとするそれぞれの理由があって、“どんなに小さなことでも生きる理由やエネルギーになるんだな”って感じました。マンガではあるけれども現実の世界に通ずるものがあって、込められたメッセージにすごく冷静にさせられました。結構、ストレートなタイトルなので、未読の人たちの中にはある種の誤解をしている人が多いかもしれないですが、そうしたストレートなイメージとは違った怖さがあるので、タイトルを聞いて敬遠していた方は、ぜひ一度読んでほしい作品です。
――仕事に絡んだ作品だと、最近では大ヒットしている『ダイヤのA』に出演されていますよね。
櫻井 高校野球を題材にした作品なんですが、これがすごく面白いんです! ヒロイックじゃないというか、主人公が「スーパー高校生」みたいな感じじゃなくて、ちょっとずつ成長していく成長物語。キャラクター個人個人のドラマも、それぞれ面白いし。負けることを丁寧に描いているというか、「負けて終わり」じゃなく「何で負けたのか、次はどうしたらいいのか」ということを選手たちが考え、立て直していこうとする。キャラクターたちは一見、大人びて見えるんですけども、どちらかというと子どもらしいバイタリティーを感じます。大人ってどこかで悟ったりあきらめたりするけれど、子どもって往生際が悪かったりする。そういう「子どもらしさ」があって面白いなと思いました。
――声優として、仕事としてマンガを読む時のアプローチはどうしているのですか?
櫻井 人それぞれだと思うのですが、僕はどちらかというと声をキャラクターに合わせて作っていくというより、“なんでこの人はここで怒っているんだろう”とか、キャラクターの内面を掘り下げることに重きを置いています。相手のキャラクターのセリフにどんな意味があって、そのセリフに対して自分が担当するキャラクターはどう思っているのか、ということを掘り下げるのが僕らの仕事の大事なところだと思うので。声質というよりかはメンタルの方が重要なんじゃないかと思っています。ただ、深読みしようとすればどこまででもできるんですが、色々考えていても、(アフレコ)現場で原作の先生に「いや、そこはもっとライトな感じです」みたいなことを言われることも結構あるんですよ(笑)。それはそれで「そういうキャラクターなんだ」と理解を深めることができますけどね。
子どもの頃に触れた青年漫画は衝撃的だった
――マンガの話に戻りますが、その他の作品では、『孔雀王』もお好きだとお聞きしました。
櫻井 実写映画化もされていて、何がきっかけでマンガを読んだのかは忘れてしまったのですが、小学生の頃に読んだ記憶があります。この作品も少し変わった世界観のマンガで、密教を題材にしていますよね。当時は「お坊さんって、こんな風な戦いをしているのか!?」と勘違いするくらい影響を受けていました(笑)。子どもの頃は、お坊さんに怖いイメージがあったので、それも含めてそんな勘違いを起こしたんですけど…(笑)。手から火が出るなどといった分かりやすい超能力とは違って、もっと儀式めいた、アングラな感じがかっこいいと思いました。闇を背負っている感じが、当時の自分の琴線に触れたんですね。
――子どもの頃から、割と暗い作品に傾倒していたのですね。
櫻井 『ドラゴンボール』など、王道の作品ももちろん好きだったんですけど、こうした取材などで印象に残っている作品を聞かれると、なぜか頭に浮かんでくるのは、これまであげたような、僕の心に暗い影と深い爪あとを残している作品になっちゃうんですよ(笑)。当時人気の少年マンガも全部読んでいましたが、その頃に触れた青年マンガの方が、衝撃的で深く印象に残っているのかもしれないですね。
『オレンジロード』は僕の青春時代の名作です!
――暗いイメージの作品が並びましたが、その他で少年時代にハマっていた作品は何かありますか?
櫻井 まつもと泉先生の『きまぐれオレンジ☆ロード』! これは、僕の青春時代の名作です。黒髪ロングで“大人の女性”な鮎川まどかさんが好きでした(笑)。
――これまであげていただいた作品とは、ちょっと趣が異なりますよね。どういったところにハマったんですか?
櫻井 僕は基本的にラブストーリーは読んでこなかったんですが、この作品は主人公が超能力を使えるという、ちょっとしたファンタジー要素も入っていたので読みやすかったんです。ショートヘアの元気な年下のかわいらしい女の子と、きれいで美人な大人っぽい女の子の間で揺れ動く主人公という不思議な三角関係が、当時の『週刊少年ジャンプ』のラインナップの中では異色な感じでしたし。
――特に印象に残っているシーンはありますか?
櫻井 主人公の恭介とまどかさんが何かスイーツめいたものを作るエピソードで、味見をしたまどかさんが「あまい」って言った後に、ひょんなことで2人が重なり合いながら倒れてしまった場面。恭介の「そんなに甘い?」とキスにもっていこうとするセリフを読んだ時は、“ハァァ!”ってなってしまいました(笑)。「キスしていい?」とかじゃなくて、「そんなに甘い?」ですよ!? 僕はあの状況でそんなセリフは出てこないなぁ…(笑)。“大人になったらこんなことがあるのかぁ”“まどかさんみたいな人が現れたら…”って、うらやましさというか憧れの気持ちがありました。
『三国志』って、うまくいかないのが面白いんですよね
――『三国志』ものもお好きだとのことですが。
櫻井 横山光輝先生の『三国志』や本宮ひろ志先生の『天地を喰らう』とか、色々読んでいますが、なかでも『蒼天航路』(李學仁・王欣太)は『三国志』をミュージカルで描くというコンセプトがすごく面白いなと思い、ハマりましたね。『三国志』の登場人物の中で、特に日本人は劉備好きな人が多いと思うんですけど、この作品では曹操が英雄的な扱われ方で描かれていて、そこがすごくかっこいい。しかもキャラクターの造形とかディティールとか、セリフの1つ1つ、言葉の1つ1つがいちいち刺さる(笑)。自分にとって「バイブル」といっても過言ではないくらいの作品です。単に僕が『三国志』が好きっていうだけなのかもしれませんが(笑)。
――『三国志』のどこに惹かれるのでしょうか?
櫻井 うまくいかない展開が面白いんですよ。結局、最後はみんな滅びちゃうっていう…。“仲間になっていれば…”“言うこと聞いておけば負けなかったのに…”の連鎖で、最終的には全てが「無」に帰す。そういう展開に“オォ!”ってなります。アニメになりますが、『機動戦士Zガンダム』の最後とかも通ずるものがありますね。こう言うと「終末思想」を持っているように聞こえますが(笑)、でも先ほども言いましたが、どんな作品が好きかって聞かれると、そうした展開のものが好きなんですよ。……滅びの美学とでもいいましょうか。
――そういう作品が好きな理由はあるのでしょうか?
櫻井 ロジカルに説明できないので、もしかしたら誤解を与えてしまうかもしれませんが、“滅びる”とか“死ぬ”とか“負ける”とか“消える”とか、そうしたネガティブな言葉に対して、僕はそんなに悪いイメージを持っていないんです。例えば、最終的にみんなが死んでしまうような作品だったとしても、そこには「自然とそうなるべくして語られるストーリー」がしっかりあるとか、原作者さんの「説明不要のパワー」があるんですよ。そうした「見応え」のあるものが好きなんだと思います。
――お話しを聞くと、終始好みが一貫していますよね。
櫻井 ちょっと理解しがたい世界観が前提にあって、しかも創っている人の「やりたいこと、見せたいもの」がきちんと見えている、また、そういう見せ方の作品が好きなのかもしれないですね。
――なるほど。長い時間、ご協力ありがとうございました。
アイアムアヒーロー(1)
作者:花沢健吾 出版社:小学館
アイアムアヒーロー(1)

鈴木英雄。35歳。漫画家のアシスタント生活。妄想の中でしか現実に勝てず、そんな自分に付き合ってくれる彼女との仲にも、不安と不満が募る。だがある日、現実の世界が壊れ、姿を変えていき…!?異才・花沢健吾による極私的サバイバルパニックホラー!!

アイアムアヒーロー(1)
自殺島 1巻
作者:森恒二 出版社:白泉社
自殺島 1巻

「自殺島」─それは、自殺を繰り返す“常習指定者”達が送られる島。主人公・セイも自殺未遂の末、その島へと辿り着いた。果たして、セイ達の運命は!?極限サバイバルドラマ待望の第1巻リリース!!

自殺島 1巻
ダイヤのA(1)
作者:寺嶋裕二 出版社:講談社
ダイヤのA(1)

中学全国大会を目標としていた沢村栄純(さわむら・えいじゅん)。最後の大会は自らの暴投で敗退してしまう。仲間とともに高校でリベンジを誓うなか、名門、青道高校野球部からスカウトが来る。見学に訪れた沢村は、いきなりエリート校の洗礼を受けることに! 名キャッチャーの呼び声高い御幸一也(みゆき・かずや)との出会いが沢村の高校野球への情熱を目覚めさせる!!

ダイヤのA(1)
孔雀王 第1巻
作者:荻野真 出版社:サードライン
孔雀王 第1巻

一切の諸悪を滅ぼす力と、美しい慈愛の相を持つと言われる孔雀王の名を継ぐ、若き阿闍梨(あじゃり)・孔雀が、この世の理から外れた鬼・怪(あやかし)・憑き物を断つ!! テレビ局で鬼が現れる事件が発生! 憑き物落としに駆けつけた孔雀が見たのは、視聴率のために追い詰められた弱者の、底しれない恨みだった……。神の力を顕現させ、神話の世界にまで足を踏み入れる、孔雀の活躍を描く超伝奇アクションの傑作が登場!

孔雀王 第1巻
きまぐれオレンジ★ロード  1巻
作者:まつもと泉  出版社:WAVE STUDIO
きまぐれオレンジ★ロード  1巻

きまぐれでミステリアスな美少女にドッキドキ☆ 超能力一家の長男・恭介は引越し初日に美少女・鮎川まどかと出会う。転校先の中学で再会した2人だが、まどかはみんなから恐れられる不良少女だった! まどかに惹かれる恭介だが、一方で後輩のひかるが猛アタックしてきて…!?

きまぐれオレンジ★ロード  1巻
蒼天航路(1)
作者:荻野真 出版社:サードライン
蒼天航路(1)

“乱世の姦雄”と呼ばれ、中国史上に巨大な悪名を残した英雄・曹操孟徳。だがその破格な生き様は、天に愛された者のみが持つ輝きに満ちている。この物語は、その輝きによって照らし出される新たな「三国志」である。

蒼天航路(1)

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