▲女優だった美しい母は死に、醜い自分が生きている。その事実すら累を打ちのめす。
▲誰も醜い自分を愛してくれないのならば、美しさを奪えばいい。母の幻影の甘い囁きに累の心が動く。
▲醜悪な自分ではけっして得られない賛美だが、偽りの美しさを依代にすれば身に浴びることができる。それはまるで甘美な麻薬のように累を蝕んでいく。
2015.2.2発行
勝手に読書
vol,21
大きく裂けたような口をした醜い顔立ちから実の父にも疎まれ、周囲からいじめられる毎日をおくっていた累。『醜い』――その事実が累の人生からすべての希望を奪っていた。自分の見た目に対する劣等感、美しいものへの憧れ、そしてそれと表裏一体の憎しみ。累の未来に光なんて見えるはずがなかった。
▲女優だった美しい母は死に、醜い自分が生きている。その事実すら累を打ちのめす。
▲誰も醜い自分を愛してくれないのならば、美しさを奪えばいい。母の幻影の甘い囁きに累の心が動く。
▲醜悪な自分ではけっして得られない賛美だが、偽りの美しさを依代にすれば身に浴びることができる。それはまるで甘美な麻薬のように累を蝕んでいく。
累に偽りの美しさを与えてくれる不思議な口紅の持ち主は、母・誘(いざな)。彼女もまた、累同様にその容貌の醜悪さから苛酷な人生を送ってきたのだった。そしていつしか“美しい顔”を手に入れ、伝説の女優と呼ばれるまでに上りつめる。その歩みを累はまだ知らない。
▲「ひとりぼっちで本当に本当に本当につらいときに」使うよう、母にいわれていた口紅。それは母の人生を変え、そして累の人生をも大きく変えるものだった。
▲口紅を塗り、くちづけることで相手と“顔”を入れ替える。しかし時間が経つと自然ともとの顔に戻ってしまうため、変えた顔を維持するためには定期的なくちづけが必要。
▲不思議な口紅の力で美しさを手に入れた累。その佇まいは、母をよく知る演出家・羽生田が母の名を口にのぼらせるほど、似通ったものになっていた。誘の通った道を累は歩いているのか?
"女優・淵透世"とよく似た面立ちの少女・野菊。誘が“顔を奪った”女性の娘であり、透世そっくりの美貌ゆえに、透世を盲愛していた実父から歪んだ愛情を押し付けられていた。“美しさ”に縛られ、それを呪っている野菊は、母親から“顔を奪った”透世と、まだ見ぬ異母姉・累に憎しみを募らせるが…。
▲屋敷の地下に軟禁され、顔を奪われつづけていた母譲りの美貌を持つ野菊。顔を奪っていた“淵透世”にそっくりな自分の“美しさ”は、野菊にとってはなんの意味もなかった。
▲“透世”を愛する父は、野菊に“透世”であることを望みつづけ、劣情を向けていた。野菊にとっては地獄のような日々。“美しさ”は野菊を救ってはくれない。
▲透世でいつづけることに絶望し、父に手をかけた野菊は、今際の父の言葉により、自分に「かさね」という名の異母姉がいることを知る。
▲互いの因縁を知らず、出会い、心を寄せ合ってしまった累と野菊。自分で望んだわけでもない“美醜”に人生を翻弄される姉妹の運命は、ついに重なりあった――。
☆偽りの美しさと虚構を重ねながら、女優の道を進んでいく累。母を苦しめた女の娘「かさね」を探しつづける野菊。そしてふたりを取り巻く人々。様々な人の思いが交錯するなか、展開していく物語の行方は!? 目が離せない『累―かさね―』の今後は、ひかりTVブックでCHECK!