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勝手に読書伝説Vol.20.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.20.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
野島健児(のじま・けんじ)
声優/青二プロダクション所属。東京都出身。出演作に、『PSYCHO-PASS サイコパス』『美少女戦士セーラームーンCrystal』『弱虫ペダル』など多数の話題作があり、歌手としても活躍中。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

『シャーロック・ホームズ』を朗読してみました
――もっとも古い、本に関する思い出を聞かせてください。
野島 うちは本が本棚に入りきらないくらいたくさんある家だったんですが、僕自身は、幼い頃はまったく本を読まない子どもでした。両親も「読みなさい」と強制することはありませんでしたね。ただ、「読んでほしいと思っているのであろう本」が棚に並んでいて、しかもそれがときどき入れ替えられていたりしたので、子どもたちが自主的に手に取るようにしむけていたんだと思います(笑)。
――けれど手には取らず?(笑)
野島 はい、本屋さんでマンガを立ち読みするくらいでした(笑)。たぶん読まず嫌いだったんだと思います。実際、10歳くらいになって『シャーロック・ホームズ』(コナン・ドイル)に出会ったときは、夢中になってシリーズを読みあさりましたから。推理小説というものを初めて知って衝撃を受けたんです。そういえば『シャーロック・ホームズ』は本を読むだけではなく耳で聞いてみたいなと思って、自分の朗読をカセットテープに録ってみたことがありました。確か『バスカビル家の犬』だったと思うんですが…。
――お父様が声のお仕事をされていたこともあって、そう思われたのでしょうか。
野島 恐らくそうだと思います。物語を耳で聞くジャンルがあるというのは親の影響で知っていました。僕は子どもの頃、東京や学校教育から離れて九州の山奥に住んでいたことがあるんですね。そこでは生きることを学ぶために自給自足の生活を送っていたんですが、時間だけは自由にあったので、本を読むようになったんです。それで、寝台列車で東京へ行くときには何冊も本を持ち込んでいたんですが、僕は音楽が好きでプレーヤーも持ち歩いていたので、あるとき本の代わりに自分で吹き込んだテープを持っていこうと思い立ったんです。
――それで朗読を。
野島 はい。だけど編集機器を持っていなかったから、途中で間違えたら最初からやり直すしかなくて。『シャーロック・ホームズ』を1冊吹き込むのはかなり大変な作業だったので、半分くらいまで録音して、結局は本を持ち歩きました(笑)。
――マンガはどんな作品がお好きでしたか?
野島 王道ですよ。『Dr.スランプ』(鳥山明)に、えんどコイチさんの『ついでにとんちんかん』や『死神くん』。あとは手塚治虫さんや水木しげるさんの作品が好きでした。水木さんの『昭和史』はバイブルみたいに繰り返し読んだ覚えがあります。マンガ家になりたくて、水木さんの絵を真似て描いたりもしていました。ストーリーは思い浮かんでもいかんせん絵が下手だったので、その夢は途中で諦めましたが(笑)。あの頃は東京の友達に送る手紙も、文章ではなくマンガで描いていました。
――マンガは読むのも描くのもお好きだったんですね。
野島 九州の山奥にいた頃は、歩くと2時間以上かかるような場所にしか本屋さんがなかったので、行くときは親に車で連れていってもらっていたんですが、買うのはいつもマンガばかりでした(笑)。
――その中でも特に思い出に残っている作品を教えてください。
野島 水木しげるさんの『河童の三平』。この作品は、未だにふと思い出しては読み返しています。つい先日も読みましたが、最後はやっぱり涙してしまいました。泣きポイントが3箇所くらいあるんですが、世代関係なく感動できる作品だと思います。明らかに虚構の世界の話で、たぬきが普通にしゃべったり死神が出てきたりするんですけど、内容はすごくリアルなので、大人でも自然に作品の世界に入っていけると思います。
――推理小説は『シャーロック・ホームズ』以外にも読みましたか?
野島 内田康夫さんとかは読みましたね。いわゆる観光地で殺人事件が起こる系です(笑)。僕は本を読み始めると手放せなくて、トイレにも持ち込んで読みきってしまうんですが、どちらかというと、僕は本を読むのが苦手な人間だと思います。すごく本を読む人って、よく「この本は今日1日で一気に読んじゃいました!」とかいうじゃないですか。でも僕は、読んでいて一瞬でも「あれはなんだったんだ?」と思ってしまうと、最初に戻って読み直さないと気がすまないので、小説なんてヘタすると1冊読破するのに1ヶ月くらいかかるんですよ。
――そうなんですか!マンガも同じような読み方をされるのでしょうか。
野島 マンガは違います。でも同じ本を必ず3回は読みますね。まず1回目はストーリーを追ってさっと読む。次は見落としがないかじっくり絵と交えて読んでいく。3回目はコマの端に隠されている作者の遊びを探してみたりとか、細部に注力して読んでいく。隠れミッキーじゃありませんけど、たとえば手塚治虫さんだと、モブキャラの中にさりげなく別の作品のキャラクターが紛れていたりするので、そういう作者の遊びを探しながら読むんです。
短編や詩、エッセイを読むように
――10代半ば~後半にかけてはどのようなジャンルを読んでいましたか?
野島 それが、そのくらいのときに一度本から離れたんですよね。文章を書くことはしていたんです。台本を書いて近所の子どもたちを集めて芝居を打ってみたり、模型を使ってビデオ映画を撮ってみたり。だけどそれまでほどマンガも小説も読まなくなっていました。そうしているうちにお芝居をするほうに興味が出てきて。映画をたくさん見ていたんですが、親からお芝居をするなら本を読んだほうがいいといわれたんです。とはいえ読むのが遅いのは相変わらずだったので、長い物語ではなく短編を読もうと思って、星新一さんのショートショートとかを読むようになりました。
――初めて触れたショートショートの印象はいかがでした?
野島 星新一さんの作品は楽しいだけじゃなく、風刺が盛り込まれていたりシュールだったり、とても深くて、こんな世界があったんだなと思って感動しました。もっとちゃんと本を読まなくちゃって。で、本というと長編小説を思い浮かべるから手を出しづらいんだと思って、そこからはショートショートや詩、コラム、エッセイと、いろいろなものを読むようになりました。反面、マンガはさらに読まなくなってしまったんですが…。
――あんなにお好きだったのに。
野島 お芝居の勉強からそのまま声の仕事をするようになっていったので、マンガを見ると、どうしても仕事モードになってしまうところがあるんですよ。このキャラを演じるならどうするだろうだとか。なので、マンガは仕事に付随する作品ばかり読むようになってしまいました。ヘタに手を出して、その作品がアニメになったときに自分が出られなかったら悔しいですからね。おもしろいと評判の作品でも、すでにアニメ化していて自分が関わっていないなら、やっぱりヤキモチを焼いてしまうので読みません(笑)。
――それはもったいない作品がいろいろありそうです(笑)。
野島 あ、でも例外もあります。かわぐちかいじさんの『ジパング』はつい興味をそそられて読んでしまい、かなりハマりました。ただ、これはうれしいことだったんですが、その後『ジパング』に僕も出演できることになりまして。出演したらしたで、自分の役が出なくなった途端にパタリと読まなくなってしまったんですよね(笑)。だからうちはコミックスが全巻揃ってないんです。最近はさすがにほとぼりも冷めたので(笑)、1巻からもう一度読み直して、続きも揃えたいなと思っているんですけど。最後まで読んでいないといえば、『最終兵器彼女』(高橋しん)もそうですね。あれは最終巻も買ってあるけれど読んでいない…。
――あえて読まずにいるのですか?
野島 そうです。『最終兵器彼女』は最終巻の手前まで読んで、これ以上ストーリーを知りたくないと思ったんですよ。終わらせたくないというか。もしかしたらバッドエンドかもしれないから、僕の中ではハッピーエンドにしておこうと思って、読まずに置いてあるんです。
――好きだからこそ、なんですね。
野島 はい。のめりこみ過ぎました(笑)。
――『ジパング』はもともとマンガもお好きだったということですが、マンガや小説など原作のあるアニメ作品に出演されるときは、事前に原作を読み込むほうですか?
野島 それはどちらもあります。器用な人なら読んでおいたほうがいいと思うんですよ。作品なりキャラクターなりを知るチャンスやヒントがあるなら、なんでも拾っていったらいいと思います。でも僕はどうしようもなく不器用な人間なので(笑)、自分の手にあまりたくさん情報を乗せすぎると、いざ必要なとき、大切なポイントを見つけ出すのに苦労してしまうんです。だから原作がある作品に出演するときは、事前に監督に相談します。原作を読むと先の展開を知ってしまうことになりますし、それがいいときもあればそうじゃないときもある。さらにいえば、先を知っていてもアニメーションになったときに方向性などが変わることもありますよね。なので、作品ごとにスタンスは違います。以前出演した『強殖装甲ガイバー』のときは、読まないほうがいいだろうということで読みませんでしたし、反対にいまやっている『美少女戦士セーラームーンCrystal』は、原作の世界観を押さえているべき作品なので、マンガも読みました。
宮沢賢治に感動しました
――最近読んだ本で特に印象的な作品を教えてください。
野島 僕はクラムボンの伊藤大助さん主催の「近代文学朗読会」というイベントに何度か参加させてもらっているのですが、そこで取り上げた横光利一さんの『花園の思想』という作品がとても印象に残っています。肺病のお話なんですけど、昔の言葉だとか病気の扱われ方だとか、昭和初期の文化が色濃くておもしろいんですよ。
――近代文学もお好きなんですか?
野島 以前は逃げていたんですが(笑)、そうした朗読をきっかけに手に取るようになりました。それこそ今更ですが、芥川龍之介や宮沢賢治を読んだりしています。初めて宮沢賢治を読んだときは、なんてキレイなんだろうと感動しました。『やまなし』という作品だったんですが、子どものときに読むのと大人になってから読むのとで、まったく印象が変わるようにつくられているなと感じました。僕の場合は、いまでよかったと思います。きっと子どものときに読んでいたら、「もう読んだからいいや」で終わっていたと思うので。とてもきれいな情景の中で、こんなにもシビアに「生」を描くんだと。みんながすごいすごいというのはこういうことなんだな、と思いました。
――逃げるのをやめてよかったですね(笑)。では、本企画恒例の質問をさせてください。こちらのインタビューではみなさんに「○○なときに読みたい本」をお聞きしています。野島さんはどんなテーマで本をご紹介いただけますか?
野島 人に本を紹介するのって、なんだか怖いですね。その本が与える影響もそうですが、それを選んだ自分の思考まで読まれてしまうような恥ずかしさがあります(笑)。
――そこをあえて選ぶとしたら…?
野島 「いまこそ読みたい本」ということで、やっぱり『やまなし』でしょうか。子どものときに読んだことがある人は、大人になったからこそ感じることがあると思いますし、僕のように読んだことがなかった人は、きっと純粋に感動すると思います。世界の見え方も命の見え方も、世代によってさまざまな作品だと思うので、本当はいつ読んでもいいんですよ。本は読みたいと思ったその瞬間に読むのがベスト。「読もう」と思ったその瞬間が、本に呼ばれているときだと思うので、ぜひみなさんも記憶の中に『やまなし』を留め置いていただけたらと思います。
――それでは最後に、野島さんにとって読書とは何かを教えてください。
野島 本というのは、その人が生きて経験してきたものを搾り出し、言葉の表現を選びながら、魂を削って書き綴られた作品じゃないですか。そんなものをお金と引き換えに読めるなんて、本当にありがたいことですよね。読まなければ人生を損している気がします。僕は子どもの頃、山暮らしの中で「生きること」を学んできましたが、あまり本を読まずにきてしまったなという思いがあるんです。だからこれからはもっと本を読むことで知識を得ていきたいと思っています。読書によって感性が磨かれたり、人間性が膨らんだりすることもありますし、そうした経験がこの先の自分をつくっていくのだと思うので、これからも積極的に本を読んでいきたいと思います。
――貴重なお話をありがとうございました。
ジパング(1)
作者:かわぐちかいじ 出版社:講談社
ジパング(1)

200X年のイージス艦が、1942年にタイムスリップしたならば―。“来(きた)る”太平洋戦争が、その先の“みらい”が激震する!!―海上自衛隊所属、最新鋭イージス艦「みらい」、謎の暴風雨に遭遇(そうぐう)。そしてすべての僚艦(りょうかん)、失踪(ロスト)…。やがて、1942年・ミッドウェー海戦域のド真ん中に“出現”した「みらい」は、撃墜(げきつい)された海軍将校を救助。そして、「歴史」は塗り替えられる―!!講談社漫画賞受賞。圧倒的なイマジネーションで描き出される、歴史横断超大作!

ジパング(1)
最終兵器彼女(1)
作者:高橋しん 出版社:小学館
最終兵器彼女(1)

ぎこちなくも清純な交際をしている高校生、シュウジとちせ。札幌が突然の空爆に襲われたある日、シュウジは思いも寄らない姿に変身していたちせに出会った。背中から羽が生え、空をマッハ2の速度で飛び、とてつもなく破壊能力を持つ、自衛隊によって改造された“最終兵器”。それがちせだった。地球のあちこちで紛争が起こるたびに呼び出され現場へ向っていくちせと、彼女を見守ることしかできないシュウジ。ふたりの未来はいったい…!?

最終兵器彼女(1)
宮沢賢治 傑作選
作者:宮沢賢治 出版社:ゴマブックス
宮沢賢治 傑作選

『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』……誰もが一度は読んだことがある有名作・人気作を完全網羅!!宮沢賢治10作品!!

宮沢賢治 傑作選

野島健児さんからのメッセージ

文字や言葉で表現する世界の奥深さ、おもしろさについては、きっとこのサイトをご覧になっている方はご承知だと思いますが、お気に入りのジャンルでも、これまで手をつけなかったジャンルでも、昔チラッと読んで記憶の片隅に残っているものでも、なんでも構いません。どうぞ僕のように読まず嫌いをせず、果敢に本を読んでみてください。自分に合わなければ「途中でやめる」もありだと思いますので、諦めずに自分に合う本を見つけてほしいなと思います。そして、僕の昔からの夢で未だ叶っていないものに、「本を書く」というのがあるので、いつか夢が叶ったときには、ぜひみなさんも読んでみてください(笑)。

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