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勝手に読書伝説Vol.19.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.19.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
柿原徹也(かきはら・てつや)
声優/ドイツ出身。子どもの頃から日本のマンガやアニメに親しみ、高校卒業後、声優になるために日本へ帰国した。出演作に、『FAIRY TAIL』『天元突破グレンラガン』『みなみけ』『ログ・ホライズン』など多数の人気作品があり、歌手としても活躍中。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

ドイツ語と日本語の本に囲まれて育ちました
――幼少期の本にまつわる思い出を聞かせてください。
柿原 うちは母親が教育熱心で見渡せば周りに本があるような家でしたから、絵本はかなり読んだ覚えがあります。ただ『まんが日本昔ばなし』や、『にこにこぷん』『ひらけ!ポンキッキ』みたいな子ども向けの番組もたくさん見ていたので、記憶が混ざってどれが絵本の話だったのかよくわからないんですよね(笑)。でも『はらぺこあおむし』(エリック・カール)とか、みんなが読んでいるような絵本は僕も大好きでした。
――柿原さんは高校を卒業されるまでほとんどドイツにいらっしゃったとのことですが、ドイツ語の児童書なども読んでいたのですか?
柿原 母親に与えられるのは日本語の本でしたけど、父親がドイツ文学者なので、子どもの頃からドイツ語の本にも触れていました。その中でも『飛ぶ教室』や『ふたりのロッテ』などを書いたエーリッヒ・ケストナーの作品はすごく読みましたね。それにミヒャエル・エンデも。エーリッヒ・ケストナーはドイツでは知らない子どもはいないっていうくらい有名な作家で、僕もドイツ語で読んでいたので、『ふたりのロッテ』が日本でアニメになっていると知ったときは驚きました。で、アニメを見たときに、「あ、アニメのほうがおもしろい!」と思ってしまったんですよね(笑)。ほかにも『小公女セーラ』とか『トラップ一家物語』とか、世界名作劇場系のアニメはいろいろ見ました。
――『ふたりのロッテ』のように原作小説を読んだことも?
柿原 読みました。特に『トラップ一家物語』はオーストリアの話じゃないですか。うちの親は「自分が住んでいる国のことは知っておきなさい」という教育方針だったので、ドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏の本はいろいろ読みました。それで、小学校の高学年くらいになるとナチス関係だったり、戦争を描いた本に触れる機会が増えて。
――『トラップ一家物語』も後半は戦時下のお話になりますね。
柿原 僕は史実ものだとか、歴史を感じることができる話が好きだったので、世界大戦のエピソードが出てくる本はけっこう読みました。『アンネの日記』は日本語訳よりも先に原本で読んだので、日本語訳の『アンネの日記』を読んだときは、ずいぶんやわらかい表現にしているんだなと思いましたね。原本ではアンネがそのときどういうふうに怯えながら日記を書いていたのかが、もっと生々しく伝わってきたように思います。
夏休みには日本のマンガをまとめ買い!
――子どもの頃から日本のマンガがお好きだったそうですが、マンガとの出会いを教えていただけますか。
柿原 確か小学校1年生くらいだったと思いますが、従兄弟の家へ行ったら『おそ松くん』(赤塚不二夫)があって、カバーが外れたコミックスの6巻か7巻をもらって帰ったんですよ。どうしてそんなに半端な巻だけをもらったのかわからないんですけど(笑)、その1冊をドイツで大切に読んだ覚えがあります。
――ドイツでは続きが読みたくてもそう簡単に日本のコミックスを手に入れることはできませんよね?
柿原 だからひたすら繰り返し読んでいたんです。あと、2年に1回か3年に1回くらいは夏休みに帰国していたので、日本にいる1ヶ月半の間にコミックスを買いあさっていました。いまは少なくなりましたけど、当時はまだ街におばあちゃんとかが個人でやっている古書店があって、店のおばあちゃんと仲良くなっては、コミックスを安く売ってもらっていましたね。棚の上に置いてあるような全巻セットは本の状態がよくて高いので、あまり値段のつかないような状態のコミックスを1巻から最終巻まで集めてもらって、毎回100冊から300冊はドイツに持って帰っていました。まるで業者のようでしたから、時代が時代だったら怪しまれて捕まっていたからもしれません(笑)。
――その限られた機会で購入するコミックスは、どのようにして選んでいたのでしょうか。
柿原 特に目当ての作品があるわけではなかったんですが、僕は本というのはひとりでゆっくり、じっくり読みたいタイプなので、立ち読みが苦手なんですね。つまり試し読みができない。だからだいたいは全巻セットになっている作品を買っていました。これは人気のはずだからおもしろいに違いない、と思って。それに『聖闘士星矢』(車田正美)とか、聞いたことのあるタイトルを。
――アニメ化されたような作品ですね。
柿原 そうです。『シティハンター』(北条司)や『キャッツ・アイ』(北条司)みたいに当時すでに完結している作品ばかり買っていたので、一世代前のマンガが多かったと思います。あとは、これは従兄弟が読んでたなとか。さすがに『ドラゴンボール』(鳥山明)はドイツでも人気があって知っていましたけど。
――ドイツでも日本のテレビアニメが放送されていたそうですが、マンガはアニメほど身近ではなかったのですか?
柿原 一応昔から日本のマンガを置いている書店もありましたが、値段が日本の3倍するんですよ!400円のコミックスが1200円ですからね、冗談じゃないと思ってとてもドイツで買う気にはなりませんでした。
――子どもの頃に特に夢中になった作品を教えてください。
柿原 小学生の頃に買ったマンガでいえば、『まじかる☆タルるートくん』(江川達也)かな。僕は日本の学校にはほとんど通っていないので、日本の学校がどういうものなのかわからなかったんです。なので、マンガで日本の学校生活を知ることができるのがすごく楽しくて、絵のタッチも可愛くて好きでしたし、小学生にはちょうどいいくらいのスケベさもあって(笑)。確かあのマンガは、作者の江川先生が「ドラえもんとは違う、万能ではない魔法使いを描きたかった」とおっしゃっていた通り、タルるートくんは10分間しか魔法が使えないんですよね。そんなタルるートくんに小学生の本丸少年が出会うわけですが、魔法は完全じゃない、魔法があっても人は完全には幸せになれないんだよっていうのを、ファンタジーなのにリアルに表現していて、子どもながらにおもしろいなと思って読んでいました。
――ドイツではそうしたマンガの話ができるお友だちもいたのですか?
柿原 ドイツにいるときは日本人と接点がなかったので、日本のマンガの話をするような友だちはいませんでしたね。アニメに関しては日本のものも普通に放送されていましたから、そういう話はしていましたけど、たぶん、原作であるマンガの存在は知らない人がほとんどだったんじゃないかと思います。
――『タルるートくん』のほかに繰り返し読んでいた作品はありますか?
柿原 それはもう全部ですよ。本当に全部。夏休みに300冊買って帰ったといっても、1日に5冊くらい読んでいればあっという間に読み切ってしまうので、どのマンガも何十回と読み返していました。だから当時は、きっといま世界で一番あだち充先生のマンガに詳しいのは僕だろうなとか、高橋留美子先生のマンガに詳しいのも僕だろうなと思っていました(笑)。
――そうした中でもこれは笑ったとか、この作品は燃えたとか、強く感情を揺さぶられた思い出があるマンガを選ぶとしたら?
柿原 笑ったのはにわのまこと先生の『超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田』。『週刊少年ジャンプ』で連載していたサッカーマンガで、あのギャグのセンスがとにかく大好きでした。それから熱かったのは『聖闘士星矢』。『聖闘士星矢』はコミックスに聖衣の分解装着図だとか読者からのファンレターだとかも載っていて、マンガ以外の部分もおもしろかったんですよね。だから自分が『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』で天馬星座のテンマをやらせてもらえることになったときは感動しました。『聖闘士星矢Ω』では紫龍の息子の龍峰役をやらせてもらいましたが、恐らく聖衣を2回着ているのは僕だけだと思うので、そのときもすごくうれしかったです。
――少女マンガを読むことはありませんでした?
柿原 少女マンガも読んでいました。僕は妹がいるので、それこそ子どもの頃にやっていたような作品はけっこう詳しいですよ。吉住渉先生だったら時代的には『ママレード・ボーイ』がタイムリーでしたけど、その前に描かれた『ハンサムな彼女』も読みましたし、『こどものおもちゃ』の小花美穂先生も『この手をはなさない』だとか、いろいろ読みました。
――『りぼん』っ子だったのですね(笑)。
柿原 なんとなく『マーガレット』系はちょっと大人な感じがして、『りぼん』のマンガばかり読んでいたんですよね(笑)。
出演作品のコミックスはすべて買っています
――大人になってから出会った本で印象に残っている作品を教えてください。
柿原 マンガだったら『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)。昔からコミックスを持ってはいたので出会ったのはずっと前なんですが、子どもの頃はあの絵柄が苦手で、パラパラっとしか読めなかったんです。ところが大人になってちゃんと読んでみたら、驚くほどおもしろくて。この作品が「すごい」といわれる理由が、大人になってようやくわかりました。いまは『ジョジョの奇妙な冒険』の大ファンです。
――小説など、活字の本ではいかがですか?
柿原 つい先日お亡くなりになった高倉健さんの『南極のペンギン』というエッセイは印象に残っていますね。日本を代表する役者さんはいったいどういうことを考えているんだろうと思って、20歳くらいの頃に読んだんです。そうしたらすごくシンプルに、「お母さんに褒められたくて僕はここまでやってきた」ということが書いてあって。お母さんが亡くなったとき、ふるさとに帰った健さんがお母さんと無性に別れがたくなって、骨壷に入っていた骨をかじったというエピソードは、特に印象深いです。役者として、人間として、男として綴られた言葉のひとつひとつが、小説家の方が作り上げたどんなストーリーにも対抗できる物語になっていると感じました。
――普段はどういうきっかけで本を手に取ることが多いのでしょうか。
柿原 小説を抜粋して朗読したりすることがあるので、そういう仕事をきっかけに本を読むこともありますが、ほとんどの場合は気づいたら身近なところにあったとか、巡り合わせな気がします。本を嫌いな人の周りに本は集まらないですからね。
――マンガや小説など原作のあるアニメ作品に出演されるときは、事前に原作を読み込むほうですか?
柿原 読んでおかないと後々自分の芝居が繋がらないなと思ったとき以外は、基本的には読みません。原作はあくまで原作で、アニメはアニメなので。もちろん原作者の先生に何か希望があったらそれは尊重されるべきだと思いますけど、原作のファンだけでなく、その作品を知らない人たちを楽しませるのもアニメなんですよね。僕らの仕事は原作を知っているかどうかにかかわらず、アニメを見た人たちの食指がちゃんと動くようにお芝居で持っていくことだと思いますし、先入観を持たないことで、「このキャラクターにはこんな役の作り方もあったのか」と思ってもらえることもあると思うので。
――あえて原作を読まないことで、役作りのアプローチの幅を広くしているのですね。
柿原 そうですね。原作があるのなら、アニメーションによってその作品の可能性をより広げるというのが、僕らの仕事の誇りだと思っています。原作の枠を飛び越えてもいいのか、あくまで原作を重視するのかは、現場によってまったく違いますけど、僕自身は常にフラットです。
――ドイツにいた頃と違い、現在は好きなときに好きなマンガを買えるようになったと思いますが、マンガ雑誌を読むことはありますか?
柿原 それはないです。仕事を始めてからは自分も作品を作る側になったぶん、マンガと距離を置くようになってしまったというのもありますが、雑誌で連載を追うっていう感覚は、たぶん日本で育った人特有のものだと思います。海外では週刊誌は売れないんですよ。1週間あったらみんな絶対に話を忘れますもん(笑)。
――読んだばかりのコミックスの続きがすぐに雑誌で読めます、という状況でも、雑誌に手を伸ばすことはない?
柿原 ないです。結局、我慢がきかないんですよね。1週間待つのが苦痛だからコミックスでまとめて読んで、忘れるんです。アニメも、日本はだいたいが週に1回の放送ですけど、ドイツは買い取った日本のアニメを月曜日から金曜日まで毎日放送していますよ。だから1クールのアニメなんてあっという間に終わっちゃう。
――なるほど、そういうものなんですね。では、本企画恒例の質問を。この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいているのですが、「○○」にお好きなテーマを入れて本をご紹介いただけますでしょうか。
柿原 難しいですね…。
――マンガでも活字でも構いません。
柿原 じゃあ「熱くなりたいときに読みたい本」で、マンガの『弱虫ペダル』(渡辺航)にします。僕はアニメで東堂尽八というキャラクターをやらせていただいているんですが、オーディションのときに僕のキャラの名シーンが収録されているコミックスが置かれていまして。ちょっと設定を確認しようと思ってコミックスを開いたら、あまりにおもしろくて読むのを止められず、そのとき出ていた巻までコミックスを買ってしまったんです(笑)。ちゃんと現代らしいおもしろさがあるのに、懐かしい熱さもある。素晴らしいマンガだと思います。ちなみに、オーディション以降に発売されたコミックスは、買ってはいるけれど読んではいません。アニメが終わったら読もうと思って、楽しみにしています。
――出演中はおあずけ、と。
柿原 はい(笑)。基本的に自分が出た作品のマンガは全部買っているんですが、どれも出演している間は読まないようにしています。
――徹底されているんですね。そのほかに人に薦めたい本がありましたら教えてください。
柿原 具体的にコレ!と選ぶのは難しいですが、時代の背景がちゃんと描かれているような、歴史を感じる作品はいいんじゃないかと思います。最初に挙げたケストナーもそうですけど、僕は現代ものやファンタジーよりも、その時代ならではの空気を感じることができる少し昔の作品が好きなんです。そういう作品は、読むと奥行きのある人生になるんじゃないかなと思うので、みなさんにお薦めしたいですね。
――本日はありがとうございました。
聖闘士星矢 1
作者:車田正美 出版社:集英社
聖闘士星矢 1

【燃え上がれ小宇宙!!聖闘士星矢誕生】孤児院で育った少年・星矢は、巨大な財団を率いる城戸家に引き取られ、ギリシアに送られる。ギリシアで壮絶な特訓を受け、成長した星矢は、青銅聖衣を得て、聖闘士となった!!日本に帰った星矢を待っていたのは、聖闘士同士で闘う史上最大のバトルロワイヤル銀河戦争だった!!

聖闘士星矢 1
ジョジョの奇妙な冒険 第1部 モノクロ版 1
作者:荒木飛呂彦 出版社:集英社
ジョジョの奇妙な冒険 第1部 モノクロ版 1

イギリス貴族ジョースター家の一人息子・ジョナサン。紳士となることを目指し不自由ない暮らしを送っていた。だがその生活は「侵略者」ディオ・ブランドーの出現で一変。事あるごとにジョジョを陥れるディオの傍らには、石仮面が不気味にたたずみ……。

ジョジョの奇妙な冒険 第1部 モノクロ版 1
弱虫ペダル 1
作者:渡辺航 出版社:秋田書店
弱虫ペダル 1

ママチャリで激坂を登り、秋葉原通い、往復90km!! アニメにゲーム、ガシャポンフィギュアを愛する高校生・小野田坂道、驚異の激コギ!! ワクワクの本格高校自転車ロードレース巨編!!

弱虫ペダル 1

柿原徹也さんからのメッセージ

マンガのように絵と言葉から話の内容を読み取るのであれ、アニメーションのように視覚と聴覚によって情報を吸収するのであれ、物語を理解するうえでもっとも必要な能力は、読書によって鍛えられる読解力だと思います。文章を読むことで脳が活性化され、成長することはわかっているので、毎日の生活の中でぜひ文字に触れてください。絵本や小説、マンガ、なんでもいいと思います。同じサブカルチャーの世界で生きている僕たちは、これからも精一杯いい作品を作っていきたいと思っていますので、視聴者のみなさんにも、僕らが作る物語を一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。

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