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勝手に読書伝説Vol.18.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.18.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
阿久津愼太郎(あくつ・しんたろう)
1995年6月21日生まれ。栃木県出身。2009年に第6回D-BOYSオーディションでグランプリを獲得し、デビュー。TVドラマ『青空の卵』『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』をはじめ、舞台や映画などで活躍するほか、〈D-BOYS 10th Anniversary Project ショートフィルム フェスティバル〉では『10分な学級会』で監督を務めた。現在はサンシャイン劇場にて公演されている舞台『コミックジャック』(2014年11月13日~24日)に出演中。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

二番手イケメンが好きなんです
――小さい頃から本はお好きでしたか?
阿久津 はい。ゲーム関係はあまり買ってもらえなかったんですが、本や文房具は望むだけ与えられる家だったので、小さい頃は『かいけつゾロリ』(原ゆたか)が好きで、本屋へ行くとよく買ってもらっていました。
――阿久津さんは大のマンガ好きですが、初めて読んだマンガは覚えていますか?
阿久津 たぶん『NARUTO -ナルト-』(岸本斉史)だと思います。小学校4年生か5年生のときに川原でやる地域のバーベキューに行ったのですが、僕は友達と一緒に川で遊ぶのがすごく嫌だったんですね。そうしたら車にあった『NARUTO』の1巻を渡されて、母親から「それを読み終わったら車から出てきなさい」といわれまして。これを読み終わったら外へ行かなくてはならないと思って、その1冊を10回くらい読んだ覚えがあります。うちは両親ともマンガを読まないので、どうして『NARUTO』の単行本が車にあったのかはわからないんですけど。
――ごきょうだいの本だったという可能性は?
阿久津 2つ違いの姉がいますが、あまりマンガを読むほうではないので、ジャンプ作品は読んでいなかったと思います。家族の中で僕だけが突然変異的にオタクになってしまいました(笑)。あ、でも父があるものの収集家なので、収集癖は受け継いでいるかもしません。僕はマンガの単行本を集めるのが好きなんです。本棚に単行本が揃っていくのがうれしいんですよね。カラフルな背表紙を並べたいがために、『家庭教師ヒットマンREBORN!』(天野明)を買い集めたくらい。
――マンガの単行本には背表紙が続き絵になっている作品もありますよね。
阿久津 ありますね。あと、これは背表紙ではないんですが、CLAMPさんの『xxxHOLiC』は小口がカラフルになっていて感動しました。
――『REBORN!』のような少年マンガは30巻超えも珍しくないので、集め甲斐がありそうです。
阿久津 並べるという意味ではそうですね。でも最近は少女マンガを中心に読んでいます。少年マンガとかのバトルものはどんどん敵が強くなっていって果てがないじゃないですか。それよりも少女マンガのように、10巻かけてひとりの男の子とつきあうようになるような話のほうが好みなんです。ただ僕は武器萌えがあるので、『バガボンド』(井上雄彦)は好きなんですが。
――『バガボンド』ということは刀ですか?
阿久津 鎖鎌です。『バガボンド』は宍戸梅軒の鎖鎌がいいなと思って読んでいます。
――ピンポイントですね(笑)。少女マンガはどういうきっかけで読み始めたのでしょうか。
阿久津 姉の本棚にあった単行本を何気なく見て、こんな破廉恥なものを読んでいるのか!と衝撃を受けたのが最初なんですけど(笑)。初めてちゃんと読んだ作品は、池山田剛先生の『萌えカレ!!』です。これがけっこう特殊な話で、王子様キャラとは別のいわゆる二番手イケメンっているじゃないですか。その二番手イケメンが当て馬に終わらず、最終的に主人公に選ばれるのです。それを最初に読んだ影響もあってか、僕、一番手よりも二番手イケメンのほうが好きなのです。でも一番手を差し置いて二番手イケメンが報われることなんて、少女マンガではそうそうないんですよ。二番手イケメンとうまくいきそうになると、編集部に色々な意見もくるみたいで。だから結末はともかく、作者の方が二番手イケメンに思い入れがあるんだろうな、と感じる作品はすごく好きですね。
――いまのお話だけでも少女マンガへのこだわりが伝わってきました。ぜひ、阿久津さんが思う少女マンガの魅力を教えてください。
阿久津 まずは絵がキレイであること。トーンシートの量からして少年マンガとは全然違いますけど、僕の中の定義として、顎が尖った絵柄のほうがキレイというのはあるかもしれません。それに女性が描く男性はかっこいいし、男性が描く女性が可愛いというのは真理だと思います。たとえば少年マンガでも作者が女性の『D.Gray-man』(星野桂)は男性キャラがすごくかっこいいけれど、女性キャラはふくらはぎとかもエロティックじゃないんですよね。あとは、少年マンガよりも余白が多いというのもあります。これは『BLEACH』の久保帯人先生がおっしゃっていたんですけど、読者は余白に入っていくものだから、背景とかをあえて描かずに白く見せることも大事だと。
――行間ならぬコマ間を読ませるために、あえてすべてを描かず想像の余地を作るということですね。
阿久津 その話を聞いたときに、確かにそうだなと思ったんです。『BLEACH』は少年マンガですが、少女マンガはよりそういう作品が多いと思います。
――阿久津さんの場合、少女マンガは誰視点で読むことが多いですか?
阿久津 僕は基本的に俯瞰です。現実の恋愛相談を受けているときも全部俯瞰。
――恋愛相談を受けることがよくあるんですか?
阿久津 『anan』(マガジンハウス)さんで連載中の「恋のかた結び 水城せとなの相談室」に登場させていただき始めてから、そういう相談を受けることが増えました。大学生にもなると悩み事が一気にレベルアップするというか。「これはつきあっているというのか、いわないのか、どうなのでしょうか」というような相談もくるので、なかなか大変です。
原作のキャラにどれだけ近づけるかを考えます
――小説に関する思い出も聞かせてください。
阿久津 マンガに比べると小説はあまり積極的に読むほうではないので、初めて読んだのも遅くて、小学校6年生くらいでした。読書週間があったり、今月は図書室で何冊本を借りましたか?みたいなことを聞かれたり、「読書はいいことだ」っていう教育が好きじゃなかったというか。強制される感じが嫌で、それまで活字といえば教科書くらいしか読んだことがなかったんです。そんな頃に『恋空』(美嘉)が流行り、見事にハマったんですよね。すごく覚えているんですが、朝の会の最中に「自分は正義だ」と思って『恋空』を読んでいたら、先生に怒られたんです。それで、大人は信じられない!と思いまして(笑)。
――本を読めといったじゃないか、と。
阿久津 そうなのです。え、どっち?って。周りの同級生たちは「『恋空』読んでいるなんて、ませているね」っていう反応でしたし、僕もはじめはド淫乱な小説だ!と思いましたけど(笑)、読んでいるうちに夢中になって、初めて上下巻を読破しました。
――主演された『青空の卵』をはじめ、ドラマや舞台には小説など原作のある作品もありますが、そうした作品に出演する場合は、台本だけでなく原作も読み込むほうですか?
阿久津 僕は読みますね。原作と同じことをやっても仕方がないから、舞台ならではのキャラ作りをするという方もいますけど、僕はどちらかというと原作のキャラにどれだけ近づけるかを考えるほうです。マンガ好きなこともあってどうしても原作第一主義になるので、むしろそこに享楽を感じないとキツイです。モデルがいるキャラクターや実在した人物を演じるときも、なるべくリサーチします。原作であることを言い訳に本を買えるという利点もありますが(笑)。
――リサーチした中で特に印象に残っているキャラクターを教えてください。
阿久津 『TV・局中法度!』で演じた沖田総司でしょうか。沖田総司って、作品によって描かれ方が極端に違うのですよね。近藤勇や土方歳三は誰もが持つ共通のイメージがありますし、斎藤一くらいだと作品によって本当にさまざまなのですが、沖田は二つの極端なイメージがあるのです。場合によっては病気という設定すらなくしてしまうおちゃめな弟的キャラと、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイみたいな儚さや憂いを備えたタイプがあって。あのときはいろいろな人が描いた沖田を参考にしました。『薄桜鬼』(著者:二宮サチ/監修:アイディアファクトリー・デザインファクトリー)とか『新撰組異聞 PEACE MAKER』(黒乃奈々絵)とか。一番参考にならなかったのは『銀魂』(空知英秋)の沖田です(笑)。
――あれは似て非なるどころか、枠のみ踏襲した別人だったと思います(笑)。
阿久津 個人的には『銀魂』の沖田総悟は大好きなのですけど(笑)。最終的には監督に相談しましたが、歴史上の人物は、結局のところウィキペディアが一番参考になるのかなという結論に達しました。
――では、マンガでも小説でも構いませんので、小・中・高校でそれぞれ思い出に残っている本を教えてください。
阿久津 思い出に残っている本はたくさんありますけど、男子キャラに注目すると、小学校時代はやっぱり『恋空』のヒロです。ヒロになろうと思ってがんばった小学校生活でした。中学生のときは『ストロボ・エッジ』(咲坂伊緒)の安堂くんで、高校生が『蛇にピアス』(金原ひとみ)のアマ。この3人は三位一体となって僕の中にいますね。
――ヒロインでお気に入りを選ぶとしたら?
阿久津 ヒロインなら、『化物語』(西尾維新)の戦場ヶ原ひたぎがキャラクターとして一番好きです。
――ツンデレ女子がお好きなんですね。普段はどういったきっかけで新しい本を手に取ることが多いのでしょうか。
阿久津 ジャケ買いはだいたい失敗するので、人に聞くことが多いかもしれません。僕はもともと同世代とあまり話が合わないので、年上の方とお話しすることが多いです。役者さんは時間があったら本を読むより映画を見ますという人が多いから、編集者の方とか、撮影現場でも裏方のお仕事をされている方とか。最近はファンの方もお薦め作品を教えてくれたりするので、そういう意見を参考にしながら読んでいます。映像化したからといってその作品を買うことはないですね。
――人に薦められなかったら手に取らなかったかもしれないけれど、読んで衝撃を受けた作品はありますか?
阿久津 少年アヤさんっていう方のブログを書籍化した『少年アヤちゃん焦心日記』と、同じく少年アヤさんの『尼のような子』。『尼のような子』はブログをベースにしたエッセイ集です。少年アヤさんは生物学上、男性なんですけど、心が女性というか、少女趣味な方で、K-POPにハマったり、綾野剛さんにハマったりっていう日々のことが赤裸々に綴られているんですが、一つ一つの表現がとにかく秀逸でおもしろいんです。僕と同じアイドルグループを応援されているので、自分が思ったことを代弁してくださっているような感じもして、オタクとしても楽しめました。
『ストロボ・エッジ』はバイブルです
――この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいているのですが、阿久津さんはどのようなテーマでご紹介いただけますでしょうか。
阿久津 青春を味わいたいときに読む本です。僕の中で最近あった大きな出来事といえば、やっぱり高校を卒業したことなのですが、もともと僕は中学校にすら行きたくない人間だったのです。だけど義務教育だといわれて仕方なく中学へ行くことにしたら、なぜか中高一貫の学校の入ってしまい…。
――ご両親の策略では?(笑)
阿久津 中学に入学した時点で高校も行かなくちゃいけないといわれて、マジか!と思ったのですが(笑)。少女マンガで萌えイベントが発生しがちな球技大会とか運動会とかが経験できるなら、高校へ行くのもいいなと考えを改めました。その高校を卒業して大学生になったいま、今度は物語の中の高校生たちがみんな自分の子どものように思えてきまして。最近は学園ものから離れて、『きょうは会社休みます。』(藤村真理)や『東京タラレバ娘』(東村アキコ)、あとはいくえみ綾先生の作品みたいな、30代の結婚できない女性の話ばかり読んでいたのですよ。いったいどこに共感しているのかもわからないけれど(笑)、とにかくおもしろくて。
――なんだか青春からは離れたような…。
阿久津 ところがたまたま手に取った『スミカスミレ』(高梨みつば)を読んだら青春を思い出したというか、恋がしたくなったんです。『スミカスミレ』は還暦を迎えたおばあちゃんが若返って高校へ行く話なんですが、10代向けの少女マンガ誌ではなく少し大人向けの雑誌で連載されている作品なので、ファンタジーな設定なのに妙な現実味もあって、本当におばあちゃんが若返って青春をやり直しているように感じるのですね。実写化するなら綾野剛さんだなと思うキャラもいるので、勝手に脳内再生しながら、おばあちゃんと一緒に高校生に戻ったような気持ちで読んでいます。
――実写化するならこの方、アニメ化するならこの声優さんなど、役者をイメージして読むことも多いのですか?
阿久津 必ずというわけではありませんけど、そういうこともあります。具体的な声優さんの名前までは思い浮かばなくても、声のイメージがはっきりあるキャラもいますし、実写化するならキャスティングはこうだよね、なんていう話を友だちとすることもありますね。
――最近特に繰り返し読んでいる本はありますか?
阿久津 『文豪ストレイドッグス』(原作:朝霧カフカ 作画:春河35)はおもしろかったです。いろいろな文豪たちが異能を持つキャラクターになって戦うマンガですが、僕が大好きな梶井基次郎が出てきたのです。まさか梶井基次郎が出てくるとは思わなかったので、出してくれるのだ!っていう驚きと喜びがありました。もし出るなら絶対に檸檬爆弾だよね、なんて友だちと話していたら、本当に檸檬爆弾(レモネード)が出てきました(笑)。
――純文学もお好きなんですね。
阿久津 高校の国語の先生がすばらしい授業をされる方で、取り上げる作品がどれもおもしろく感じられたんです。それで教科書をきっかけに作品を読んだりしました。僕は古典も好きなのですが、中でも『筒井筒』は最強だなと思っていて。浮気をする男がいればそれを許す女もいて、最終的に別れる理由は「俺のご飯を勝手によそったから」っていう。この現代人には理解しがたい感覚がすごく好きなんですよね。あと、ここぞっていうときの感情の表し方が、泣き叫ぶでも怒鳴り散らすでもなく、一句詠むという趣深さもいいなと思います。
――幅広いジャンルの作品を読んでいらっしゃいますね。
阿久津 でもピラミッドの頂点に君臨するのは少女マンガですね。咲坂伊緒先生は僕にとって神様も同然で、『ストロボ・エッジ』はバイブルです。『アオハライド』の実写版で菊池くんを千葉雄大さんがやってくれたのはうれしかったんですけど、僕は『アオハライド』より『ストロボ・エッジ』派です。
――マンガ好きの阿久津さんがいま一番人に薦めたい作品を教えてください。
阿久津 『3月のライオン』(羽海野チカ)はどんな年齢の方にも薦められるすばらしい作品だと思います。僕も最初はそうでしたし、将棋ものっていうことで敬遠してしまう人がいるかもしれませんが、背景に書かれているモノローグが本当に心に沁みますし、夜のシーンが多くて印象的なので、秋の夜長にぴったりじゃないでしょうか。
――それでは最後に、阿久津さんにとっての読書の楽しみをお聞かせください。
阿久津 読書は最強の個人プレイだと思います。栃木の田舎では娯楽といえばYouTubeかマンガくらいしかなくて、もともと僕が読書を始めた理由もそこにあるんです。マンガは暇さえあれば読めるし、電車の移動中でも読める。そういうときは周りも一切気にならなくなるんです。おかげでよく電車を乗り過ごすのですけど(笑)。いまはゲームも通信対戦ありきで、ひとりでやっていたものがどんどん共有するものになってきていますよね。でも本はどうがんばっても二人で読むことはできないじゃないですか。そこに、僕は「この森の秩序は保たれている」と感じるんですが、一方で、個人で蓄えたものを他人と共有できるところも読書の魅力で。僕は以前ショートフィルムの監督をやらせてもらったことがあるんですけど、自分の中にある作品のイメージを人に伝える際、この作品のこういう感じ、あの作品のああいう感じと、いろいろな作品を引き合いに出して説明したんです。そのときに、いままでしてきた読書が糧になっていることを実感しました。なので、僕にとって読書は最強の個人プレイなんです。
――電車の乗り過ごしにはお気をつけください(笑)。楽しいお話をありがとうございました。
萌えカレ!! 1巻
作者:池山田剛 出版社:小学館
萌えカレ!! 1巻

ひかるは恋にあこがれてるだけの女の子。そんなひかるが見知らぬ男の子に初キスを奪われた!しかもさいかい再会した彼はひかるのことをまったく覚えてなくて?ドキドキが止まらないジェットコースター学園ラブ!

萌えカレ!! 1巻
ストロボ・エッジ 1巻
作者:咲坂伊緒 出版社:集英社
ストロボ・エッジ 1巻

仁菜子は素直でおっとりした高校生。まだ恋はしたことないと思っている。自分に想いをよせる大樹への気持が恋だといわれて、いいヤツだとは思ってるけど…?ある帰り道電車で学校で人気の男子・蓮と出会う。少しの会話や笑顔だけで仁菜子は新しい気持を感じる。この気持はいったい…!?仁菜子のほんとの初恋が始まる!

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3月のライオン 1巻
作者:羽海野チカ 出版社:白泉社
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その少年は、幼い頃すべてを失った。夢も家族も居場所も──。この物語は、そんな少年がすべてを取り戻すストーリー。その少年の職業は──やさしさ溢れるラブストーリー。

3月のライオン 1巻

阿久津愼太郎さんからのメッセージ

僕は本当にマンガが好きで、小学校の卒業文集にも将来はマンガ家になりたいと書いていたんですが、そんな僕が『コミックジャック』というまんが家が主人公の舞台で、主演を務めさせていただくことになりました。この舞台は「オタクは卒業するもの」という文化が根付いていた中で、演出家のきだつよしさんが、マンガのおもしろさをもっと世に広めたいという思いを込めて書かれた作品です。そんな作品が11年ぶりに再演されることになりました。オタクがファッションブランドのひとつかのようになってきたいまの時代だからこそ、感じることがあると思うので、ぜひいろいろな世代の方に観に来ていただきたいなと思います。よろしくお願いします。

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