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勝手に読書伝説Vol.11.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.11.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
高殿円(たかどの・まどか)
1976年生まれ。兵庫県出身。2000年に第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞し、『マグダミリア 三つの星』でデビュー。以降、『銃姫』『プリンセスハーツ』など、ファンタジー作品を中心に執筆。2010年に刊行された『トッカン―特別国税徴収官―』が続編とあわせてTVドラマ化されたほか、2013年には原作を手掛けるコミック『魔界王子 devils and realist』(マンガ:雪広うたこ)がTVアニメ化。ジャンルを越えて活躍中。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

主人公の<儀式>をお風呂で再現
――高殿先生は大のコミック好きですが、初めて買ったコミックスはなんでしたか?
高殿 『ときめきトゥナイト』(池野恋)の2巻ですね。そのときは確か2巻が新刊だったんです。それから母にねだって『りぼん』を買ってもらうようになりました。『星の瞳のシルエット』(柊あおい)に出てくる<星のかけら>がもらえる応募者全員プレゼントがあって、応募した覚えがあります。あの頃は応募者全員プレゼントの全盛期だったので、いろいろ応募しましたね。最初は『りぼん』っ子でした。そのあと『なかよし』も買うようになりましたが、『なかよし』は雑誌の後ろのほうに載っていた『呪いの黒十字』(松本洋子)だけは怖くて読めなかったんですよね。
――ホラーが苦手だったんですね。
高殿 はい。ホラーはいまだに苦手です。それで、『りぼん』『なかよし』のあとは『少コミ』を読むようになって、『花とゆめ』にたどりつきました。その頃はもういわゆるオタクでしたね(笑)。『ぼくの地球を守って』(日渡早紀)が大好きでした。
――当時は読むだけでなく描くことも?
高殿 描いていました。私はもともとマンガ家になりたかったので、マニアックな話ですが、烏口で枠線も引けます(笑)。高校は漫画クラブで大学時代は漫研に入っていました。
――とはいえ、小説も読んでいらっしゃったんですよね。
高殿 はい。子どもの頃はコバルト文庫がすごく流行っていて、私も氷室冴子さんの作品が大好きでした。もし私の人生を変えた作家さんを3人選ぶとしたら、氷室冴子さんと田中芳樹さん、福永武彦さんです。福永武彦さんは大学のときに専攻して、おもしろいのはもちろんですが、とにかく文章が好きでしたね。田中芳樹さんは例に漏れず『銀河英雄伝説』。氷室冴子さんは『ざ・ちぇんじ!』から入ってずっと追いかけていました。だからお亡くなりになられたときは本当にショックで…。『銀の海 金の大地』シリーズは、私の中で勝手に続編を作って完結しました。
――想像というか妄想というか(笑)。
高殿 妄想ですね(笑)。ちなみに、『銀河英雄伝説』の外伝も同じように私の中で勝手に作り上げて完結しています。
――そのお話を読んでみたいです。小説家さんではなくマンガ家さんで、ご自身が作品を書くうえで影響を受けたと思う方はいますか?
高殿 マンガ家さん…小説を書くうえで影響を受けているかはわかりませんが、昔本当に大好きだったのは成田美名子さんの『CIPHER』です。成田さんが描かれるカラーって、ものすごく綺麗じゃないですか。思わずコミックスを持っていながら愛蔵版も買ってしまいました。特に成田さんが描くデニムのお尻のポケットの線が大好きなんです。
――それはまたピンポイントですね(笑)。
高殿 だって、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか。あの方のカラーと線が大好きなんです。それに、あの時代(85年~90年)にアメリカの学生の日常を描いたっていうのもすごいことだったと思うんですね。ほかの方はみなさんドラマティックなお話を描かれていたのに、すごく普通の少年少女を描かれていて。お話もそうですが、成田さんの作風が大好きなんです。落ち込んだときにバスキューブを溶かしたとっておきのお風呂に入るっていうアニスの<儀式>は、いまだに私、再現していますから(笑)。何かで落ち込んだときはLUSHで石鹸を買って、昼間にお風呂に入るんです。そのくらい好きですね。
――ほかにも思い出の作品がありましたら教えてください。
高殿 佐々木淳子さんのSFもので『ブレーメン5』という作品があるんですが、掲載誌の休刊などがあってちゃんと完結していなかったんですね。でも私はずーっと待っていて。そしたら15年以上経って完結させてくださったんです。あれは本当にうれしかったですね。それもあって、自著の『カーリー』が中断していたときも、いつか絶対に続きを書いて完結させるぞ、という気持ちでいられました。実際、『カーリー』が講談社文庫さんで復刊していただけることになったときは、近年で一番といっていいほどうれしかったです。
本の購入はお布施です
――これは繰り返し読んでいる、という作品はありますか?
高殿 最近だったら白浜鴎さんの『エニデヴィ』と明治カナ子さんの『坂の上の魔法使い』シリーズでしょうか。歴史ものも多いですね。あとは山岸凉子さんの『舞姫 テレプシコーラ』もすごく好きなんですが、第一部のラストが可哀想すぎて! やっぱり妄想で補完して完結させました(笑)。オノ・ナツメさんは『つらつらわらじ』が一番おもしろいなと思って繰り返し読んでいます。完結している作品だったら、海野つなみさんの『後宮』。あれは最終巻が本当に秀逸でした。ほかの海野さんの作品とはまた違う魅力があると思います。そもそも『とはずがたり』をリメイクしようと思われたことがすごい。とても忠実に描かれていておもしろかったです。
――近頃注目のマンガ家さんも教えていただけますか。
高殿 『エニデヴィ』の白浜鴎さんはまだ新人さんですけど、衝撃的でした。ほかには…私はずっとよしながふみさんは天才だと思っていて、それこそ『ベルサイユのばら』の同人誌を描かれていた頃から好きなんですけど、水城せとなさんも、私の中でよしながふみさんと同じカテゴリーに入るんじゃないかな、と思っている方です。セリフもモノローグも独特で、“この人にしか描けない”ものを描かれるんですよね。絵自体はわりとさっぱりしているのに、どこかドロっとした感じがあって。一見なんてことないラブストーリーなのに、この人にしか描けないって思わせる力があるんです。だから水城さんも必ずくるだろうなと思っていましたが、『失恋ショコラティエ』で一気に一般での知名度が上がりましたね。
――『失恋ショコラティエ』のようにお好きな作品がドラマ化された場合、ドラマもチェックしますか?
高殿 『失恋ショコラティエ』は見ました。石原さとみちゃんが好きなので、可愛い~と思いながら楽しみました。ただ、ファッションはイメージと違ったんですけど。紗絵子さんはLOEWEのバッグを持っているような女性なのに、どうしてあんなにブリブリなの!って思いながら見ていました(笑)。
――新旧問わずたくさんのコミックを読んでいらっしゃいますが、新しい作品は何をきっかけに手に取ることが多いですか?
高殿 インスピレーションでしょうか。書店さんに行っておもしろそうだと思う本を端から買います。これはお布施ですから、と。だって本を購入することで、その作家さんが次はさらにおもしろい作品を描いてくれるかもしれないじゃないですか。それは出版業界に身を置く者として私自身もわかっているので、1巻めは特に、重版がかかりますように…と祈りを込めて買っています。
――周りから薦められて読んだ本で衝撃を受けたものはありますか。
高殿 私はもう絨毯爆撃のごとくコミックスを買うので、たいていの本は知っているんです。だから薦められるんじゃなくて、いつも薦める側なんですよね。
――では世間で話題になると、「遅いよ~」と思うことが多い?
高殿 「遅いよ」というよりも、「あ、やっぱりこれおもしろいよね」と思います。自分の見る目は確かだった!って。
――コミックを読んで創作意欲が湧いたり、何かインスピレーションを得ることはありますか?
高殿 コミックは完全に娯楽というか趣味で読んでいるものなので、確実に栄養にはなっていますが、自分の作品に直接何かを反映することはないと思います。コミックは読んでおもしろいと思っても、こういうのをやりたいなというのではなく、もっとこういうものを読みたいってなるんですよね。
どんな本でもいい、本に触れてくれたらいいな
――いくつもシリーズをお持ちで大変お忙しいと思いますが、普段はどんなときにコミックを読んでいらっしゃるのでしょう。
高殿 お風呂の中です。リラックスタイムですね。お湯に落としたらもう一冊買います。先ほどのアニスの<儀式>じゃないですが、お風呂は私の聖域なんです。小説もお風呂で読みますね。いまは図書館で本を借りることはないので、どれも自分の本ですから。あとお風呂以外では、Kindleで買ってiPadで読むことも多いです。最近は『SWAN』(有吉京子)を読んでいます。
――何十巻とある長編の場合、電子書籍は便利ですよね。この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいているのですが、高殿先生はどんなテーマでご紹介いただけますか?
高殿 何かで詰まったときとか、ちょっと自分の原点に返りたいときに『PALM』シリーズ(伸たまき/獸木野生)を読みます。もうすぐ終わるらしいですね。うそ~本当に終わるの~!?って思っていますが(笑)。このシリーズはとにかく長いので、スカっとしたいときは「オールスター・プロジェクト」編を読んで、逆にもんもんとなりたいときは「星の歴史」編、ちょっと小難しいことを考えたいときは「愛でなく」編を読んだりしています。モノローグがすごくお上手なので、ノスタルジックな気分に浸れるんですよ。とにかくいまは最後まで見届けたい気持ちでいっぱいです。
――では、ご自身と同年代の女性に薦めたい本を教えてください。
高殿 自著で挙げるなら『上流階級 富久丸百貨店外商部』です。あれはアラフォーの働く女子にロマンスグレーの王子様を差し上げたくて書いた本なので、読んでいただけるとうれしいです。コミックだったら、タイムリーな『失恋ショコラティエ』をお薦めします。あれはどなたにでも薦められる作品だと思います。夫がおもしろいといっていたくらいなので、男性も楽しめるんじゃないでしょうか。あとは『千年万年りんごの子』。田中相さんには頼み込んで『上流階級 富久丸百貨店外商部』のカバーを描いていただいたんですが、あの方も天才だと思います。『千年万年りんごの子』は全3巻ですし、お手ごろじゃないかと思います。
――お子さんを含め、子どもたちに薦めるとしたらいかがですか?
高殿 どれを、というのはないですね。本だったらなんでもいいです。どこから入ってもたどり着くところは同じだと思うので。『ドラえもん』でもいいし『ポケモン』でもいいし、どういう入り方をしても、おもしろいと思ったら自然に難しい本でも手に取るようになると思うんですよね。だからどんな本でもいいので、本に触れてくれたらいいなと思います。…ただ、『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)はいつか読んでほしいな。
――アニメとの違いに驚くかもしれませんが(笑)。
高殿 それもまたいいんじゃないかと(笑)。
――最後に、高殿先生が思う“読書の魅力”を聞かせてください。
高殿 読書というのは家にいながら世界一周できるじゃないですか。これはすごくお得だと思うんです。文庫だったら500円くらいで冒険ができてしまうわけなので。それに脳をフル活用するので老化防止にもなるんです。こんなにすばらしいことはないなと思いますね。
――貴重なお話をありがとうございました。
月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!
作者:氷室冴子 出版社:集英社
月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!

17歳の貴志子(きしこ)は、親子ほどに歳が違う恋人の有実(ありざね)から、彼の娘の晃子(あきらこ)を預かってほしいと頼まれた。晃子は15歳。気が進まなかった貴志子だが…? 表題作『月の輝く夜に』のほか、同じく文庫未収録作品『少女小説家を殺せ!』『クララ白書番外編 お姉さまたちの日々』を収録。そして文庫・単行本で134万部を記録した不朽の名作『ざ・ちぇんじ!』上下巻を併せた、氷室ファン必読の1冊!

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!を見る
失恋ショコラティエ
作者:水城せとな 出版社:小学館
失恋ショコラティエ

製菓学校に通う爽太(ソータ)は一つ上のサエコと交際中。4年前の一目惚れから想い続け、去年のクリスマス直前にようやく初キス。大のチョコレート好きな彼女のため、チョコ作りの腕を磨く日々。彼女からタバコの匂いがしても、バレンタインのデートを断られても、全くくじけず挑み続ける爽太だったが…!?

失恋ショコラティエを見る

高殿円BOOK GUIDE

ライトノベルに一般文芸と、多彩な魅力を持つ高殿作品の中でも、
特に熱い支持を受ける2作品をご紹介します!
トッカン 特別国税徴収官
著者:高殿円 出版社:早川書房
トッカン 特別国税徴収官

国税徴収官の税金取り立て奮闘記
“ぐー子”こと鈴宮深樹は東京国税局・京橋税務署の徴収官。納税相談はまだしも、税金滞納者の取り立てが主な仕事とあって、徴収官は街のみんなの嫌われ者だ。なかでも特に悪質な事案を扱う特別国税徴収官(=トッカン)付きのぐー子は、鬼上司の鏡にしごかれながら、カフェの二重帳簿疑惑や銀座高級クラブの罠に挑むことになるが…。話題のベストセラーシリーズ第1弾。

【一口メモ】
本作と続編『トッカンvs勤労商工会』を原作とした連続TVドラマが、2012年日本テレビ系にて放送。新米徴収官のぐー子を井上真央、上司の鏡トッカンを北村有起哉が演じた。


トッカン 特別国税徴収官とを見る
カーリー <1.黄金の尖塔の国とあひると小公女>
著者:高殿円 出版社:講談社
カーリー

英国統治下のインドで運命の出会いを果たした少女たち
第二次世界大戦前夜。父親の仕事の都合で故郷ロンドンを離れた14歳の少女シャーロットは、海を渡り、英国統治下のインドへ。駐在英国人の子女が通うオルガ女学院に転入した彼女は、オニキスの瞳を持つ美少女カーリーと出会う。神秘的で大人びたカーリーをはじめ、個性豊かな友人たちと初めての寄宿舎生活を楽しむシャーロット。しかし、カーリーには大きな秘密があった。

【一口メモ】
激動の時代を舞台に、少女たちの恋と友情、さらに国々を巻き込む陰謀を描いた歴史少女小説。熱狂的読者を生みながら未完となっていたシリーズが、講談社文庫で待望の再始動!

カーリーを見る

高殿円先生からのメッセージ

私は、読書というのは脳のトレーニングだと思っています。本を読まなくても読書と同じだけ脳細胞を使っていればいいんですけど、読書と同じくらいのコストや時間で、同じだけ脳細胞を使い、さらに教養がつくなんて、ほかにはないと思うんです。本当にこんなにお得なことはないので、コミックからでもいいですし、好きな役者さんのガイドブックからでもいい。嵐の松潤が出演していたから『失恋ショコラティエ』を読んでみるっていうのもありだと思います。なんでもいいので本に触れてみてください。本の送り手のひとりとしてお待ちしております。


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