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勝手に読書伝説Vol.8.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.8.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
田中宏(たなか・ひろし)
広島県出身・在住。1987年、高校在学中に「FOOL」(少年画報社『ヤングキング』1号掲載)でデビュー。翌年にスタートした初連載『BADBOYS』がいきなりの大ヒット。男性読者を中心にマンガファンから熱い支持を受ける。ほか代表作に、『莫逆家族』『KIPPO』『女神の鬼』など。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

『1・2の三四郎』の男らしい絵に一目惚れ
――もっとも古い本(読書)に関する記憶は、いつ頃のどんなものでしょうか?
田中 家庭があまり穏やかでなかったので、母親に絵本を読んでもらった記憶もありませんし、どちらかというと本と縁のない環境でした。そんな中、親戚の家は商売繁盛のお金持ちだったので何時行っても漫画や雑誌が転がっていて、僕はその中の『週刊少年チャンピオン』をよく読んでました。
――生まれてはじめて自分のお金(お小遣い)で買った作品はなんでしたか?
田中 『1・2の三四郎』
――田中先生は、小林まこと先生の『1・2の三四郎』に出会わなければマンガ家にはなっていなかったそうですが、『1・2の三四郎』にはいつ頃、どのような形で出会ったのでしょうか。
田中 小学生の頃、そろばん塾に行かされていて、それが嫌でいつも近所の本屋でさぼって立ち読みしていました。その時コミックの棚に並んでいた『1・2の三四郎』の絵に釘付けになったというワケです。
――『1・2の三四郎』のどんなところに特に惹かれたのですか?
田中 とにかく男らしい絵に一目惚れです。かといって僕は劇画的な絵柄は嫌いなんです。『1・2の三四郎』は劇画のカッコイイ所とデフォルメしたポップなギャグ顔を上手く絡めた1970年代終わり頃の他の漫画と比べて抜群に絶妙なバランスの漫画でした。戦い、友情、成長、ギャグ、その全てが臭くなくて、まぁ単純に面白かったです。
 僕の家には借金取りも来ていましたし、小学4年生ぐらいから「中学を卒業したら家を出て自分で働いて生活しなくちゃ…!!」と思っていましたので、無意識のうちに自分にできそうな仕事をずっと探しながら生きていました。『1・2の三四郎』は主人公たちが学生時代に培ったものをひっさげプロレス団体へ入門(就職)して戦っていく展開が少年期にずっと連載されていましたので、馬之助がプロレスラーになると恩師に挨拶に行くシーンや、その間ずっと腕立て伏せをし続けていた三四郎の桁外れな努力を見て、社会人になって戦うイメージトレーニングをさせてもらいました。
――小学生~高校生までの読書遍歴を教えてください。
田中 はじまりは『週刊少年チャンピオン』『マカロニほうれん荘』や『らんぽう』が好きでした。それからは広島なのでお好み焼き屋に漫画雑誌が山ほどある中でたまたまチョロッと読む感じがほとんどでしたが、大好きな『1・2の三四郎』は単行本まで読まないように我慢しつつ、他の漫画を見ている中で『ストップ!ひばりくん』で江口寿史先生の大ファンになり、その後もずっと見てました。
 14歳の頃にドラムセット欲しさに小池一夫先生の[劇画村塾]の新人賞に応募して入選を戴いたんですが、その雑誌でたなか亜希夫先生の漫画を知り色々読みました。その頃に初めて上京して、原宿の本屋さんに平積みされている『AKIRA』を買って帰りの新幹線の中で読み、漫画家になるのを一度諦めました(笑)。
――成人してから出会ったコミック・小説で印象深いものを教えてください。
田中 単行本になってるかどうかわかりませんが、1992年にどこかの雑誌でやってた江口寿史先生の『ヌードラマ』っていう読み切り漫画がセンスがあって、むちゃくちゃ面白くて大笑いしたのを覚えています。その他は…う〜ん、本との出会いは出版社の中で編集者の方に紹介される本ばかりでした。そうなると先に情報ありきで読むものばっかになっちゃって小説とかはあまり印象に残っていませんね。
――影響や刺激を受けたと思われる作家・作品を教えてください。
田中 小林まこと先生、江口寿史先生、吉田聡先生、吉田秋生先生、たなか亜希夫先生、その他にも無意識にしみ込んでるモノは多々あると思います。
――デビュー前と以降とを比べて、いち読者としてコミックとのつきあい方、距離感などに変化はありましたか?
田中 もともと僕は漫画を読むのがヘタクソなので、デビューしてからは全てのコミックが教材であり敵でありといったモノになってしまい、到底純粋には読めなくなりました。しかし、エロ本だけは昔とまったく変わらず純粋に読めます(笑)。
一番読んでるのは自分の漫画(笑)
――近頃よく読む本のジャンルはなんですか?
田中 昔から変わらず、実話の自叙伝とか実録モノのドキュメントしか読みません。あとは調べごとする為の資料本ですね。
――ここ数年でもっともハマったコミック作品を教えてください。その作品のどんなところがお気に入りですか?
田中 基本的に漫画をガッツリ読む事はありません。
――コミック以外で、ここ数年で特に夢中になった本はありますか?
田中 サッカーダイジェスト。1990年代初頭に購読しはじめたんですが、大好きなサッカーを通して[プロとしての生き方]や[戦い方]を記事と実際の選手の生き様を照らし合わせながら学んでます。これに関してはどんな本より事実以上の教材無しです。
――普段はどんなときに本を読むことが多いですか?
田中 何かを具体的に企んでる時ですね。情報を収集する時が一番多いです。
――何度も繰り返し読んでいる小説・コミックがありましたら教えてください。
田中 ありません。むしろ大好きな本たちは大切に保管してます♪ 宝物扱いですね♪
――ご自身の作品を読み返されることはありますか?
田中 実際に一番読んでるのは自分の漫画です(笑)。作品世界が全作品繋がってるので、確認する為に読まざるをえないという…(苦笑)。
――田中先生は広島県のご出身ということで、広島が舞台の作品を多数描かれていますが、自著以外の広島を舞台にした本でおすすめのコミックや小説がありましたら教えてください。
田中 『はだしのゲン』。
――同じく自著以外で(すみません…!)おすすめのヤンキーコミックはありますか? 理由とあわせて聞かせてください。
田中 デビューしてから編集長に薦められた『湘南爆走族』ですね。高校の頃に友達の部屋にあった『BE-BOP-HIGHSCHOOL』はチョロッと読んだ事あったんですが、湘爆はまったく読んだ事がなかったので、初めて読んだ時はその物語力に衝撃を受けました。吉田聡先生は今でも僕の目標です。
――描き手と読み手それぞれの視点から、ヤンキーコミックの魅力を教えてください。
田中 そもそも自分の漫画がヤンキー漫画と思って描いてないので、ヤンキー漫画とひとくくりにジャッジされる事にずっと違和感を感じてきました。『湘南爆走族』や、僕の漫画もそうなんですが、[不良カッコイイ][番長最高]とは描いてないんです。読者の方の中にはそれでいいと言われる方もいらっしゃいますが、僕はそれは無責任で嫌いです。
 [暴走族は迷惑な存在だ!][嫌われ者だ!]と描いた、ヤンキー漫画というジャンルがあるとするのなら、主人公たちの社会的立場(カッコ悪さ)を家族や大人、様々な目線でちゃんと描いて初めてヤンキー漫画と言われるジャンルになるんではないかなと思っております。そういうヤンキー漫画にはきっと[世の中から弾かれた持たざる者たちの悲しみ、葛藤、闇、そして希望]が描かれている筈なので、そういった部分が魅力だと思います。
――ちなみに、これまで描かれたご自身のキャラクターで、コイツとなら仲良くなれる、反対にコイツとは絶対につきあえない!と思うキャラは誰ですか?
田中 全作品の全キャラクターが自分であり友達なので、どいつとも仲良くなれると思いますが、遊ぶなら[桐木司][川中陽二][長谷川壮吉][横田あつし][ドンばぁ~][牛山玄造]…あと[淫獣女王]とかかな♪  付き合えないのは『女神の鬼』の鎖国島の怖い面々です。鬼ですから。
――『BADBOYS』など映画化やドラマ化されている作品も多く、他ジャンルで活躍されている方々と接する機会もおありだと思います。そうした交流をきっかけに、自ら進んでは手に取らなかったであろう意外な本との出会いはありましたか?
田中 これを本と言っていいのかわかりませんが、個人的にもっとも衝撃的だったのは、原作に愛の無いつまらない映画やドラマの脚本です。僕は関係者皆で面白くする為に喧々諤々意見を戦わせるモノかと思っていましたが、むしろ逆で「時間がない」と、まったく直してもらえないとか、原作の読者の気持ちを軽んじた内状でした。
 漫画を生業にし、愛している者として本の一つの成功の証である映画化やドラマ化の作られ方が改善される事を願ってやみません。
イライラするヤンキーこそ本を読め!
――いつもはどういったきっかけで新しい本を手に取ることが多いのでしょうか。
田中 昔はアシスタントの男の子がよく少年誌を持って来ていましたのでウンコの時に読んだりしていましたが、最近は誰も持って来ないのでぜんぜん読まなくなりました。それこそ仕事の為に読む資料本ばかりです。あとは出版社から届く雑誌や担当編集者さんが色々と送ってくれますね。
――この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいています。「○○」にお好きなテーマを入れてお答えください!
田中 ヤンキー漫画は好きじゃないんですが、仁義なき戦いは大好きな田中宏です(笑)。最近の若者のヤンキー漫画好きな子たちに読んでほしい本なんです。最近の若者はリアルがどんなモンかわからない人ばかりになってしまいましたので、 「アウトローのリアルが知りたいなってなときに読みたい本」⇒『実録[仁義なき戦い]・戦場の主役たちーこれは映画ではない!』 …を紹介します。この本を読めば、その辺の不良高校生どーしで最強だのヤバイだの言ってるヤンキー漫画が子供だましに思えてきますよ(笑)。
――子供におすすめしたい作品とその理由を教えてください。
田中 漫画をあまり知らないので今の子たちに合う作品はわからないんですが、ファンタジー以外の作品をとにかく読んでほしいです。若者の人間力低下が叫ばれる昨今。僕が小学4年生の時に読んだ『1・2の三四郎』がもたらしてくれたソレのように、現実に見ている世界を舞台にしているだけで、自分に置き換えて参考に出来やすいと思うんですよね。魔法みたいな力は現実社会には通用しませんし、最近[努力]を描く作品があまりないと聞きますから、そういったモノも読んでほしいですね。
 昔の子はバランス良く皆見てたような気がするんですけどね。そして必ず社会にいる大人、男女、年寄り、子供等々が全て登場する作品であってほしいです。そうすれば、子供たちの人間力やコミュニケーション能力の向上に漫画も役にたてるのではないかな…と。そう思ってます。
――ご自身と同年代の男性におすすめしたい作品はなんですか?
田中 『莫逆家族』と『KIPPO』です(笑)。手前味噌ですいません(笑)。
――田中先生にとって、読書の楽しみとはなんだと思われますか?
田中 想像力の向上はもちろんの事、精神の安定。イライラするヤンキーこそ本を読め!ですね(笑)。自分自身のボキャブラリーの向上。成長を感じられる事が一番の楽しみではないでしょうか♪
――貴重なお話をありがとうございました。
1・2の三四郎
作者:小林まこと 出版社:講談社
1・2の三四郎

おれが日本一の闘魂男、東(あずま)三四郎だ!得意技はブレーンバスター、勝負したいヤツはいつでもきなさい!私は誰の挑戦でも受ける!!ラグビーの腕は超一流なのに、なぜか柔道部に所属、しかも趣味はプロレスというヘンなヤツ、三四郎の爆笑学園コミック!

1・2の三四郎を見る
らんぽう
作者:内崎まさとし 出版社:秋田書店
らんぽう

UFOに遭遇したらんぽう君が超人化!!彼がまきおこすスーパーはちゃめちゃな世界をご堪能下さい!!

らんぽうを見る

田中宏BOOK GUIDE

広島で生まれ広島で育った田中宏が描く、広島のヤンキーたちの物語。
代表作2タイトルをピックアップ!!
BADBOYS
著者:田中宏 出版社:少年画報社
BADBOYS

夜の街を熱く描いた広島暴走グラフィティ
 男を磨くため不良になる決意をしたボンボン育ちの桐木司が主人公。名うての不良だった川中と知り合った司は、川中を通じて弱小暴走族・極楽蝶と出会い、廣島Night'sとの抗争に巻き込まれたのちに極楽蝶八代目頭となる。そして広島最強と目される段野が八代目総長を務める最大の暴走族・陴威窠斗(ビイスト)との抗争で、極楽蝶と司は県下にその名を知らしめるようになっていく。争い続ける暴走族たちの熱く激しい青春の日々。

【一口メモ】
1988年~1996年に少年画報社『ヤングキング』にて連載された出世作ともいえる作品。コミックス全22巻、売上は累計4000万部を超える。続編『BADBOYS グレアー』全16巻とあわせて読むことで二世代にわたる因縁なども明らかに。


BADBOYSを見る
『莫逆家族』(ばくぎゃくファミーリア)
著者:田中宏 出版社:講談社
『莫逆家族』を見る

大人になったアウトローたちが築いた“家族”
 関東最大の暴走族・夜叉の総長を17歳で務めていた火野鉄は、31歳となったいま、建築会社の作業員となっていた。過去を封印して大人しく過ごしていたが、仲間と再会し、子どもが事件に遭ったことを機に、夜叉の元メンバーを中心に自分たちだけの法律で生活する家族(ファミーリア)を形成する。昔のように世間のルールを無視してでも家族を守ろうとする鉄を軸に、目を背けたくなるような厳しい現実までを描いた話題作。

【一口メモ】
1999年~2004年に講談社『ヤングマガジン』にて連載された。コミックスは全11巻。田中宏作品ではほぼ唯一、関東が舞台になっている。2012年にはチュートリアル・徳井義実の主演で実写映画化された。

『莫逆家族』を見る

田中宏さんからのメッセージ

『BADBOYS』『GLARE』『莫逆家族』『女神の鬼』『KIPPO』と、僕の作品は全て独立した物語ですが、作品世界は全て繋がっています。『BADBOYS』のキャラクターたちは『KIPPO』では親になってますし、他の作品のキャラクターが登場する楽しさみたいなモノもあわせて味わってもらえればと思っております。読まれた事のない方や読まれてない作品がある方は、是非一度手に取って頂けたら幸いです♪


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