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勝手に読書伝説Vol.5.5 特集 ゲストインタビュー

勝手に読書伝説Vol.4.5 特集 ゲストインタビュー

プロフィール
森見登美彦(もりみ・とみひこ)
2003年に京都大学在学中に執筆した『太陽の塔』で第15回ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。独特の文体、世界観で一躍注目を集める。2007年に『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞を、2010年に『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。今年デビュー10周年を迎えた。

私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー

『ギャグマンガ日和』を読むのが寝る前の日課
――思い出深いコミック作品を教えてください。
森見 子どものときは『ドラえもん』ですね。特に映画の原作となった『大長編ドラえもん』のシリーズをよく読んでいました。まだ実家にぼろぼろになったコミックスがありますよ。僕にとっての初めての『大長編ドラえもん』は、祖父母に買ってもらったものです。子ども心にじいちゃんたちにねだればほしいものが手に入るチャンスだとわかっていたんですね(笑)。それでじいちゃんとばあちゃんのところに遊びにいったときに、本屋で『大長編ドラえもん』をねだったら、二、三冊買ってもらえたんです。ただ、子どもにとってコミックスを二、三冊まとめて買ってもらえるなんてそうあることではないので、なんだか罪悪感すら感じてしまったのを覚えています。じいちゃんばあちゃん、ごめん…って(笑)。でもすごくうれしかったですね。その後、自分でも買い集めて何度も読み返していました。大学生のときも読み直ししましたね。『大長編ドラえもん』ほどコストパフォーマンスのいいものはないと思います。コミックス1冊分なのにそうは思えないほど中身が詰まっている。映画1本観たくらいの充実感があるのに、実際には30分くらいしか経っていなかったり。子ども心に不思議でした。子どものときだからおもしろかったというのでなく、大人になって読んでも楽しいシリーズだと思います。
――『大長編ドラえもん』並みに読み返したものはありますか?
森見 そこまでのものはありませんが、『ドラゴンボール』や『キン肉マン』は熱中して読んでいましたね。とはいえ、そんなにコミックを買うほうではなかったんですよ。なのでそれくらいですかね。
――コミックより小説が好きだった?
森見 いえ、そういうわけでもないです。小説も読んではいましたが、コミックも小説もどちらも数を多く読んでいたわけではないんです。小説に関しては、中学・高校の頃は母親が読んでいたミステリを僕も読んでいました。あとスティーブン・キングのホラー小説なんかも読んでいましたね。スティーブン・キングは好きでした。
――コミックだとほかに好きな作家さんや作品はどういったものでしょうか。
森見 好きな作品という意味では、浪人生のときは山本直樹さんの『フラグメンツ』にハマりました。大学生になってからは萩尾望都さんの作品を読むようになりましたね。あと、『ピューと吹く!ジャガー』と『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』が今でも好きです。ジャガーさんとマサルさん、好きですね。寝る前になんでだかよく『ピューと吹く!ジャガー』を読み直ししていました。最近は、増田こうすけさんの『増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和』を読むのが寝る前の日課です。
――日課なんですね(笑)。
森見 そうですね。何度も読んでいるのでオチも展開もわかっているんですが、それでもなんとなく読んでしまうんです。今はそれが『ギャグマンガ日和』で前は『ピューと吹く!ジャガー』だったわけですが、特に明確な理由があるわけじゃないと思います(笑)。
『よつばと!』が大好き
――そのときの気分やシチュエーションで読むものが決まっているということではないんですね。
森見 はい。言い忘れていましたが、僕は『よつばと!』が大好きなんです。でも読むときの決まりがあるわけではないですし。『よつばと!』は新刊が出るのをすごく待ち望んでいる作品です。今でも必ず新刊を買うのは、『よつばと!』と『ギャグマンガ日和』。あと望月ミネタロウさんの『ちいさこべえ』(原作:山本周五郎)も新刊が出たら買いたい。
――それらの作品を手に取ったきっかけを教えてください。
森見 『よつばと!』は、以前の勤務先の人に借りて読んだらすごくよくって、自分でも買うようになりました。『ちいさこべえ』は、綿矢りささんとライターさんと3人でご飯を食べる機会があったのですが、食事のあとに書店でそれぞれ相手におすすめの本を買うというのをやったんです。僕は綿矢さんに山岸凉子さんの『汐の声』をもらって仕事場でひとりで読んだんですが…。
――それはとてつもなく怖いコミックをもらいましたね。
森見 もうあまりの怖さにびっくりしました(笑)。そのときライターさんが僕にくれたのが『ちいさこべえ』でした。『ちいさこべえ』は何がどうおもしろいのか説明できないんだけどおもしろいんですよ。それで新刊が楽しみになりました。望月ミネタロウさんはもともと『ドラゴンヘッド』は読んでいたのですが、それがきっかけでまた読みたいと思って、『東京怪童』なども読んでみました。でも僕はあまり勤勉ではないので、ひとりの作家を好きになっても、その人の作品をすべて網羅みたいな感じで集めて読んだりすることにはならないんですよね。
――今誰かに何かコミックをおすすめするとしたら何にしますか?
森見 相手にもよりますが、現在連載中の作品でいちばん自分がおすすめするのは、やはり『よつばと!』ですね。新刊が出たときにいちばん胸が躍るんです。『よつばと!』は本当にいい作品だと思います。ああいうのが書けたらいいなとも思うんですよ。なんでおもしろいのか、なんであんなに読後がいいと思えるのか、はっきりとはわからなくて説明できないのですが、すごく好きです。毎回何事もない日常を描いているかのようで、何かはちゃんとあるんですよ。ストーリーがはっきりしてるとか構成が凝ってるとかじゃなくて、登場人物たちが作品世界の中で生きてる感じがすごくする。『よつばと!』に限らず、どんな作品も上手に作品世界の中で登場人物たちが生きている感じに描ければ、実はそれだけで充分おもしろいんだと思うんですけど、そうすることはとても難しいことでもあると思います。だからストーリーで凝ってみたりいろいろな仕掛けをしたりする。でも『よつばと!』は本当に上手に作ってあって、日常の小さな波をきちんと捉えて描いているんですね。そこに感動するんだと思います。すごいなあと思いますよ。…ああ、でもやっぱり『よつばと!』の魅力はうまく説明できないですね(笑)。僕よつばがホットケーキをひっくり返したところで泣きましたからね。あとクマのぬいぐるみをあさぎお姉ちゃんが直してくれたときも。なんていうんだろう、すごく美しかったんですよ。悲しいとかじゃなくて、すごく美しいものを見て感動するみたいに、『よつばと!』を読むとなってしまう。どうやったらあんないい感じのものが書けるのかよくわからないので、本当にすごいと思います。
――それが自分でもわかったら、書いてみたいと思いますか?
森見 わかったら書きにくくなるんじゃないかと思います。計算だけでは書けないだろうし。ああいう作品は計算はあるかもしれないけど、それより感覚的なものが大きな気がしますね。作者の意識が隅々まで行きわたっている気がする。でも『よつばと!』を読んでいるときに、こういう感じは小説では再現できないのだろうかと考えたりはしますよ。未だに答えは見つからないんですけどね(笑)。
入魂の長編よりはいろいろ書いていこうかなと
――『よつばと!』を本当にお好きなんだというのが伝わってきます。
森見 まさか大人になってこんなにコミックの新刊を楽しみにするとは思いませんでした。コミックに限らず何かを買い忘れて家に戻ってしまったら、それを思い出してもまた買いに行ったりはしないんですよ。明日でいいやってなるのですが『よつばと!』の新刊を買い忘れたなら、大雨が降っていても絶対買いに行くと思います(笑)。そんな本はなかなかない。そういう気持ちを大人になって失っていたかもしれないので、新鮮ですね。
――というと?
森見 中高校生のときは、書店で好きな作家の本が置いてあったらおおっていう驚きと喜びがあったんですよ。何の気なしに書店に寄ったらスティーブン・キングの新刊があってハッとするみたいな…。まるで好きな女の子に偶然会ったくらいの衝撃が(笑)。でも大人になってからは、どんなものにもそこまでのものはなくて「あ、新刊出てるんだ」「じゃ買うか」くらいのテンションになってしまっていた気がします。でも『よつばと!』は新刊を手にするまでドキドキするので(笑)。
――『よつばと!』愛ですね。
森見 実は、僕がデビューしたのと『よつばと!』の連載が始まったのが同じくらいの時期なんです。僕がいろいろ書いているうちに、もう10年も『よつばと!』続いているわけです。僕だったら10年も同じ世界を書き続けるのは難しいと思います。いろいろなものを書かなきゃいけないのはしんどい部分もありますが、別のことができるという楽しみもあるし、ひとつの世界をずっと掘っていかなきゃいけないよりは楽な面もたくさんありますからね。それに対して、ひとつの世界を十年描き続けるというのは本当に大変だしすごいことだと思います。
――今お話にも出ましたが、今年でデビュー10周年を迎えられたということで、おめでとうございます!
森見 ありがとうございます。あっという間だったとは思わないのですが、早かったような、そうでもないような…。目の前の仕事をなんとかこなしていたら10年経っていたという感じです。
――来たる20周年に向けて10年連載計画などはいかがですか?
森見 無理です!(笑) 僕はこれからあまり長い小説を書かないでおこうと思っているくらいなのに。
――そうなんですか!?
森見 短い小説をぽんぽん出していくのがいいんじゃないかなと思うところがあるんです。小説は超大作の時代ではない…というか、正直長編は僕がしんどいんです(笑)。入魂の長編よりはいろいろ書いていこうかなと思っています。
――新作をご自身にとっての『よつばと!』と同じように、楽しみにしている読者も多いかと思います。
森見 ありがたいことに、サイン会などで実際に読者さんからそうお声掛けをいただいたり、新刊を喜んでくださっているのを見る機会もあるのですが、その実感がいまひとつ湧かないんですよね。自分がかつて好きな作家の新刊を見つけてハッとしたみたいに、自分の新刊にハッとしてもらえているという実感はどうしたって湧かなくて。
――森見少年にとってのスティーブン・キングの新刊と、誰かにとっての森見作品の新刊が結びつかない?
森見 結びつかないですね。きっとこの先もずっと結びつくことはないでしょうね。新刊を喜んでもらっているという声は届くし、姿も見るんだけど、ハッと思ってもらえてるかなんてわかんないじゃないですか(笑)。でも、デビュー当時から状況が変わったんだなってことはわかります。デビュー前は、それこそ誰にも期待なんかされていないけど、この書いている小説はできあがるのかなって不安を抱えながら小説を書いていました。今だって書いている小説はできあがるのか不安を抱えながら書いているんですが、寄せられる期待が違う。それはわかります。だから同じように不安なのになんか割に合わないなーって(笑)。デビューから10年経っても小説の書き方はわからないままです。でもたぶんこのままわからないわからないっていいながら書いていくんだと思います。
――貴重なお話をありがとうございました。
増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和
作者:増田こうすけ 出版社:集英社
増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和

古今東西のネタを盛り込んだ、めくるめくギャグマンガ登場。うすた京介先生を始め各界から絶賛を受けたヘンテコワールドがキミの臓腑をじわじわ刺激する! 伝説の読切「夢―赤壁の戦い―」「青春のしたたり」も収録!

増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和を見る
ピューと吹く!ジャガー
作者:うすた京介 出版社:集英社
ピューと吹く!ジャガー

酒留清彦はミュージシャンを夢見る17歳。ある日、意を決してオーディション会場へやってきた清彦は、そこで謎のフエ吹き男と出会う。彼こそが、この後の清彦をギャグ人生へと誘うジャガーさん、その人であった!!

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森見登美彦BOOK GUIDE

学生時代を過ごした京都が舞台の作品を何作も手がける森見登美彦さん。
現実と妄想、日常と非日常が入り混じる作品の中から、魅力が際立つ二作をご紹介します♪
有頂天家族
著者:森見登美彦 出版社:幻冬舎
有頂天家族

面白きことは良きことなり!
人間と狸と天狗が人間の知らぬうちに共存している京都。狸の名門・下鴨家の三男である矢三郎は、落ちぶれ天狗の師匠・赤玉先生を慕いつつ、半天狗の美女・弁天に翻弄されながらも、兄弟たちと日々面白おかしく過ごしていた。ところが偉大な父が狸鍋の具にされた哀しき事件の真相が明らかになり!? 京都の街を駆け巡る毛玉たちの活躍やいかに。

【一口メモ】
本作を原作とし、キャラクター原案に『さよなら絶望先生』の久米田康治を迎えたTVアニメが2013年7月から9月にかけてTOKYO MX、KBS京都ほかで放送された。


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宵山万華鏡
著者:森見登美彦 出版社:集英社
宵山万華鏡

夢か現か宵山か
風変わりな友人と祇園祭に出かけた「俺」は、いつの間にか立ち入り禁止区域に迷い込んだ挙句、「祇園祭宵山法度」を犯したとして屈強な男たちに捕らえられてしまう。一方、目が覚めれば宵山の朝という「宵山の一日」から逃れられなくなった人々もいて…。日常と非日常、阿呆話とミステリアスな話が混在する不思議な印象の連作集。

【一口メモ】
宵山とは、京都祇園祭の前祭のこと。夕刻になると、山鉾に吊られた駒形提灯が灯り、祇園囃子が流れてくると街は幻想的な雰囲気に。京都の夏に欠かせない行事のひとつ。

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森見登美彦さんからのメッセージ

実はいろいろ書いています。よくいわれるのが京都の学生ものなのですが、それ以外にも京都が舞台ですがタヌキの話だとか、住宅地に住む少年が主人公の話だとか。そういうのもありますので、知っていただくとよいかもしれません。


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