――「進撃の巨人」を描くにあたって気をつけていることはありますか? 諫山 ヒキを強くして面白そうに見せるということです。あと、巨人を怖く描くことは意識しています。雛型から巨人の存在を練り直したときに、何があろうとうすら笑いを浮かべている巨人というのは怖いんじゃないか、と思ったので、それを崩さないよう心がけています。 ――その巨人ですが、あの世界には超大型巨人をはじめ何種か存在していますよね。 諫山 超大型巨人は、自分の中でウルトラマン的な立ち位置というか、ヒーローというか、そういう存在なんです。自分でカッコいいと思って描いています。ほかの有象無象の巨人たちは「仮面ライダー」のショッカーみたいな感じです(笑)。 ――超大型巨人はむき出しの筋肉が特徴的ですが、あれはどんなところから発想したのですか? 諫山 <30秒ドローイング>という絵の練習支援サイトがありまして、モデル人形が30秒ごとにポーズを変えるのを描くのですが、そのモデル人形が皮膚のない筋肉むき出しの状態なんです。おそらく筋肉の付き方、動き方の勉強用だと思うのですが、その人形を見たときに、カッコいい…!って。それで、これだと思いました。 | |
――巨人たちはみな人型をしているだけに、余計に意思の疎通ができないことが不気 味で恐ろしく感じます。 諫山 それも意識しているところです。以前に飲み屋街近くのネットカフェで深夜バイトをしていまして、場所柄酔ったお客さんも来るんですが、大概意思の疎通がとれないんですね。それがものすごく怖かったんです。犬だとか猿だとか意思の疎通がとれない動物よりも怖い。一度目の前から消えても鉄パイプだとか持ってまた現れるかもしれないし、何をするか予想がつかない。同じ人間なだけにものすごく嫌でした。身近な恐怖って、凶暴な動物だとかではなく、いちばん自分の近くにいる他の人間にもたらされるものだと思ったので、そういう怖さも出せたらいいなと思っています。 ――雛型となった作品に登場する巨人は、現在連載中の「進撃の巨人」に登場する巨人とさほど違いはなかったのですか? 諫山 持ち込みした作品では、人間に化けたりして、やりたい放題な設定でした(笑)。あと、街の周りに特殊な木が植えられていて、その木には巨人は近づけないことにしていましたね。街に壁があるわけではないのですが、RPGみたいな感じで、なぜか街の中に巨人は入ってこれないという(笑)。 ――巨人が人間を捕食するのも恐ろしいのですが…。 諫山 人間を食べるのは、怖さを出すためというよりはそういう設定のほうが面白いと思ったからですね。誰しも何かに食べられてしまうことに先天的な恐怖感があると思うんです。でもそれを意識し続けているとストレスになってしまう。それで怖いものみたさじゃないけれど、高い所が怖いのについ下をのぞきこみたくなったりする感じで、恐怖を面白さや好奇心に変える転換システムがあると思うんですね。巨人が人間を食べると設定することでそれが効くんじゃないかと思いました。捕食者への恐怖を楽しむというか。そういう楽しみ方もできるんじゃないか、と。なので、巨人はサイズ的にも人間をひと飲みにしたりはできないんですが、捕食感を出したくて巨人の口から人間がはみ出ている絵を描いたりしています。 ――これまで描いてきた中で、特に描いていて楽しかったり、印象に残っていたりするのはどんな場面ですか? 諫山 4巻の1話めに収録されている回です。そこを描くためにこれまでがんばってきたといえるくらい、描きたかった回でした。そこに至るまで動きのあまりない場面が続いたりもしたのですが、それは凪のような状態で、そのあと待っている嵐を描くための助走期間のようなものだったので、弾けるべきその回がつまらなくては肩透かしになってしまうと思って、相当気合も入りましたね。そのこだわりがなかったら、3巻の最後の回に無理やり話をねじ込んでいたと思います。 |