プロフィール
安元洋貴(やすもと・ひろき)
声優/シグマ・セブン所属。重厚な低音ボイスが特徴で、アニメやナレーション等で活躍。現在放送中のTVアニメ『鬼灯の冷徹』に主人公の鬼灯役で出演中。ほか出演作品に、『BLEACH』『男子高校生の日常』『Axis powers ヘタリア』『弱虫ペダル』など。
私のイチオシ!コミック&ブック・レビュー
- コミックはかなり雑食です
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――本にまつわるもっとも古い思い出を聞かせてください。
安元 一番古いのは間違いなく絵本だと思います。いもむしの仕掛け絵本とか、幼稚園にあったものや誕生日に祖父に買ってもらった絵本を読んでいた覚えがありますね。絵本以外にも文字媒体は積極的に買い与えられたんですが、自分で欲しいといって買ってもらった本でよく覚えているのは、ミヒャエル・エンデの児童書です。『モモ』が大好きでした。
安元 小学生時代で思い出に残っているのは、御多分に漏れず『キン肉マン』(ゆでたまご)ですね。僕の家はなかなか厳しくて、子どもの頃はあまりアニメを見せてもらえなかったんですが、『キン肉マン』は日曜の朝10時から放送していたので、父と一緒に見ることを許されていたんです。『キン肉マン』はコミックスも父が買ってくれていました。
その後はやっぱり『週刊少年ジャンプ』。僕は今36歳でいわゆる『SLAM DUNK』(井上雄彦)世代なんですが、中高生くらいの頃、『ジャンプ』を筆頭に週刊コミック誌がすごく盛り上がった時期がありまして。当時はもう、月曜日に『ジャンプ』『ヤングマガジン』『ビッグコミックスピリッツ』を買って、水曜日に『週刊少年サンデー』『週刊少年マガジン』、木曜日に『ヤングジャンプ』『ヤングサンデー』『モーニング』と、あらゆるコミック誌を読んでいました。
――コミック誌を追うだけでも一週間が忙しいですね。
安元 そうなんです。大学生になると、『ベルセルク』(三浦建太郎)とか青年誌のアグレッシブな作品も読むようになって。『ジャンプ』や『モーニング』は今も読んでいますし、姉がいるので、『BASARA』(田村由美)や『BANANA FISH』(吉田秋生)といった少女マンガも読んでいましたから、コミックに関してはかなり雑食です。
――そうした中で特にハマった作品を教えてください。
安元 僕が高校生の頃に榎本俊二さんが『モーニング』で連載していた『GOLDEN LUCKY』っていうギャグマンガが、それはもうぶっ飛んでいて大好きでした。榎本さんはのちに『えの素』という作品も描かれましたが、どちらも本当におもしろくて。2作とも好き嫌いがはっきり分かれるタイプなんですけど、僕の高校のクラスではすごく流行ったんです。それで大学生や社会人になったときにみんなも当然知っていると思って、「『GOLDEN LUCKY』っておもしろいよね」といったら、誰も話が通じなかったんですよ。そのとき初めて、当時のクラスがニッチな空間だったことを知りました(笑)。僕としては、今でも読むと爆笑しちゃうんですけどね。
――コミックは雑食ということですが、活字系は特定のジャンルを読むことが多いのでしょうか。
安元 小説は昔も今も、もっぱら歴史ものですね。現代もののちょっとおしゃれな小説があまり得意じゃなくて、歴史ものならではの、文章からいろいろなことを想像させてくれるところが好きなんです。北方謙三さんや司馬遼太郎さん吉川英治さん。…吉川さんで中国ものに触れてから三国志への興味が止まらず横山光輝さんのコミック『三国志』を全冊買って見たり。最近も北方さんの『絶海にあらず』を読み返しました。北方さんの言葉の回し方がすごく好きで。
――お気に入りの作品は繰り返し読まれるほうなんですか。
安元 そうかもしれません。それに最近は電子書籍があるじゃないですか。僕は独身なので自由になるお金があるわけですよ(笑)。そうすると、夜中に寝っ転がりながら電子書籍のサイトを見てコミックスをまとめ買いしてしまったりするんです。この前も板垣恵介さんの『グラップラー刃牙』シリーズをまとめ買いして、えらい金額とえらいメガバイトを取られました(笑)。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(荒木飛呂彦)もそうですね。実家にコミックスが揃っているのに、今読みたい!と思うとつい買ってしまうんです。
安元 はい。電子書籍は何百冊買ってもiPad1枚で済んでしまうので、便利ですよね。あとはエントリーモデル的に電子書籍を活用することも多いです。電子書籍って、以前は紙の本で出てからしばらく経って発売されることが多かったじゃないですか。それが今はコミックに関してはほぼ発売日と同時に出るので、まずは電子で買ってみて、これは手元に残したいなと思ったらそのままAmazonに飛んで購入するっていう。これを僕は「二重課金」と呼んでるんですけど(笑)。
安元 いえ、そんなことはないです。本屋さんは僕の中でけっこう重要ですね。店で平積みになっている本を見て、気になる表紙があったら買うということも多いので。現在出演中の『鬼灯の冷徹』との出会いも表紙買いでした。
――そうなんですか。アニメ化が決定する前から『鬼灯の冷徹』を愛読されていたことは存じ上げていたので、先ほどのお話から、『モーニング』で連載を追いかけていらっしゃったのかと思いました。
安元 それが、『鬼灯の冷徹』は僕がちょうど『モーニング』を買っていなかった時期に連載がはじまったので、最初の出会いは本屋さんで見つけたコミックスなんです。表紙の色使いが独特だし、絵柄も独自の雰囲気を持っていて、パッと目を引かれました。で、「そういえばこれ、後輩がおもしろいっていってた作品だな」と思い出して、コミックスを買ったんです。
- 『鬼灯の冷徹』は間違いなくお薦め
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――初めて『鬼灯の冷徹』を読んだときの印象を聞かせてください。
安元 シュールギャグでこれはおもしろいなと思いました。週刊誌のコミックは往々にして走り読みができるものが多かったりするじゃないですか。展開が早かったりコマが大きかったりして、情報量自体はわりと少ないというか。そんな中、『鬼灯の冷徹』は1話の情報量がすごく多くて、じっくり読んで楽しめるんです。これを週刊で連載しているなんて、江口(夏実)さんはすごいなと思いました。話の舞台は地獄ですけど、僕らが生活する現代社会にも置き換えられることがたくさんあって。もしも今友だちに「何かおもしろいコミックない?」と聞かれたら、間違いなくこの作品を薦めますね。職場での地位や人間関係のあれこれに、「あるある」と思うことがいっぱい詰まっていると思うので、サラリーマンの人にこそ読んでほしいんですよ。
――読者として楽しんでいた作品がアニメになると聞いたとき、すぐに出演したいと思いましたか?
安元 ただのファンとしてコミックを楽しんでいるときは、自分が演じるなんてことは考えていないので、アニメになると知ったときも、「へ~、そうなんだ」と思っただけでしたね。コミックの中で鬼灯の声がバリトンだといっていじられたり、ああ見えて金棒を振り回す大男だということも描かれていましたが、自分の声を重ねて考えたことはありませんでした。だから自分にオーディションの話が来ているといわれたときは驚きましたし、単純にうれしかったです。
――オーディションを受けることになり、鬼灯というキャラクターに対するイメージに変化はありましたか?
安元 一読者だった頃と比べたら多少の変化はありますが、オーディションの話をいただいた時点で、きっと自分が呼ばれたことに意味があるんだろうと思って、よけいなことを考えるのはやめました。
安元 僕が呼ばれたということは、このべらぼうに低い声に意味があるんだろうと思ったので、がんばって高めの音を出そうとするのではなく、まずはこのままやってみようと思ったんです。実際、オーディションに合格して現場でほかのキャストの方に会ったら、「なるほど、これなら僕が高めに声を作る必要はないんだ」と納得しました。もちろん、アニメを見たら人それぞれ感じることはあると思うんですが、僕自身は、現場でほかの方とのバランスを見て安心したというか、自信を持って演じられるようになりました。みなさん素晴らしい方ばかりなので、背中を支えてもらっています。
――主人公である鬼灯を演じるときに意識していることを教えてください。
安元 作品全体としてはいろいろぶっ飛んだ設定があるわけですが、鬼灯自体はブレちゃいけない、ボケしろが少ない役なんです。その中で決めなくちゃいけないところや遊ばなくちゃいけないところがあるので、そういうコントラストは意識しますね。
――確かに、鬼灯はやり手で辛辣な言動が目立つ反面、クイズ番組や動物好きなど親しみやすい面もあって、そうしたギャップがキャラクターの魅力に繋がっていると思います。そんな鬼灯を演じていて、ご自身に似ているなと思う部分はありますか?
安元 正直なところ、自分に近いなと思うところがすごく多いんですよ。助けを求められたら、文句をいいながらも、最終的には「仕方ないな」という感じでやってしまうところとか。僕も後輩が何かブーブーいっていたら、「うるさいな、じゃあいいよ」ってやってしまう部分があるので。あとは、「この人なら大丈夫、ちゃんと良い返しをくれる」と思った相手には、わざと攻撃的な発言をしてしまうという面も似ているかもしれません。アニメ関連のラジオ番組とかでも、僕は「この人になら預けられる」と思ったら、わざと徹底的に攻めるんです。遊佐(浩二)さんとか津田(健次郎)さんとご一緒するときはまさにそうなんですけど。
――そのあたりは役柄の関係性にも通じるところがありますね。『鬼灯の冷徹』について、コミックとアニメ共通の魅力、見どころを聞かせてください。
安元 もともと『鬼灯の冷徹』は女性にも人気のコミックだと聞いたんですが、僕は本当に、男性にも、男性にこそ読んでもらいたいと思っていまして。この作品の楽しみ方の一つにキャラクターを会社の上司とかに置き換えたりして楽しむ、というのがあると思うんですね。そういう「あー、こういうヤツいるよな」っていうのは、男性こそ身近な人に置き換えて読めると思うんです。社会人ならより顕著に。それに、持ち込まれる面倒事やら巻き起こるトラブルやらに対して、鬼灯とか、誰かしらがアクションを起こしてくれるので、読んでいてスッキリします。そういうシュールでありながら痛快な作品なので、アニメもきっとみなさんに楽しんでいただけると思います。
- 頭をからっぽにしたいときに読みたい本は…
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――普段はどんなときに本を手にすることが多いですか?
安元 時間が空けばいつでもという感じでしょうか。電子書籍を利用するようになってよけいにそうなった気がします。容量の問題はありますけど、今はファッション誌だろうがゲーム誌だろうが、なんでも電子書籍で買えますからね。とはいえ、今でこそそうなりましたが、最初は僕、電子書籍というものをネガティブに捉えていたんですよ。「本っていうのは本来紙媒体なんだから、ちゃんと紙で読もうよ」と、自分の中の生真面目な部分が邪魔をしていたんです(笑)。だけど実際に電子書籍を利用してみたらすごく便利で、最近はすっかり、電子で読むものと紙で買うものと、本によって分けるスタイルに落ち着きました。
――電子書籍を利用しようと思われたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
安元 はい。前にアメリカへ行く機会がありまして。アメリカまでなんて、フライト時間がめちゃくちゃ長いじゃないですか。初め、僕はゲームも好きなので、機内でゲームをやっていればいいかと思っていたんです。でも周りが寝静まっていると、ボタンを押す音がカチカチうるさいんですよね。それでこれは申し訳ないなと思って、ゲームをやめて電子書籍を買ってみたのが最初です。そのときに買ったのが『弱虫ペダル』(渡辺航)でした。『弱虫ペダル』はもともと好きでコミックスを持っていたんですが、アニメ化が決まり自分も出演することがわかっていたので、仕事をする前にもう一度読んでおこうと思って買い直したんです。アメリカ滞在中はテレビも見ませんでしたから、ほかにもかなり買いまくりましたね。『鋼の錬金術師』(荒川弘)に『ソウルイーター』(大久保篤)、横山光輝版『三国志』もそのときに買いました。『鋼の錬金術師』や『ソウルイーター』は、僕が一番好きだった頃の少年誌のテンションがあって大好きなんです。どちらも出演していませんけど(笑)。因みに全部本を既に持っていたので二重課金ですけど(笑)。
――(笑)。この企画ではゲストの方に「○○なときに読みたい本」を教えていただいているのですが、安元さんはどんなテーマでご紹介いただけますか?
安元 それでは、「頭をからっぽにしたいときに読みたい本」に。僕らの仕事っていろいろな役を演じるのもそうですが、それ以外でも、ラジオで何かしらおもしろいことをいわなければいけないとか、意外と常に頭をぐるぐる回しているんですね。そうすると、家に帰ったときに一回リセットしたいなと思うことがあって。お酒を飲んでみんなでバカみたいな話をするのもいいんですが、毎日そういうわけにはいかないでしょう。そういうときに簡単に頭をからっぽにできる本が、手塚治虫さんの『火の鳥』なんです。
安元 そうなんですよ。とにかくスケールが大きくて…。人間の力ではどうにもできないことや、人である限りどうしようもないこと。人間の汚い部分とかも描かれているんですが、読んでいると、気づけばポジティブな気持ちで「どうすることもできないな」と思っている自分がいるんです。
安元 初めて出会ったのは小学生の頃ですね。父が買ってきてくれました。でも、手塚さんは“劇団手塚治虫”みたいな感じで、名を変え姿を変え作品の枠を越えてキャラクターを登場させるので、それがおもしろくて、大人になってから自分でも全集を買いました。手塚さんの作品はどれも大好きですが、中でも特に思い入れがあるのが『火の鳥』なんです。我王の人の変わり方にいろいろ感じるところがあって、鳳凰編は特に読み返すことが多いですね。
――安元さんにとってとても大切な作品なんですね。では、今ご自身と同年代の男性に薦めるとしたらどんな本を選びますか?
安元 最近の作品だったら一番は『鬼灯の冷徹』ですが、昔の作品から選ぶなら、僕が子どもの頃に『ジャンプ』で連載していた『THE MOMOTAROH』(にわのまこと)です。これがまた賛否両論分かれるギャグマンガで、僕とか鳥海浩輔さん、岸尾だいすけさんくらいの世代の一部にだけやたらと人気があるんですよ(笑)。まあ、万人受けするタイプではないんですが、僕と同じような感覚を持っている人だったら絶対に楽しいと思います。あとは『DEATH NOTE』でお馴染みの小畑健さんが描かれた『CYBORGじいちゃんG』。かなり古い作品ですが、シュールでとてもおもしろいんです。デビュー当初からむちゃくちゃ画力があることもわかりますよ。
――基本的にシュールでコミカルな作品がお好きなんですね。
安元 どこかギャップがある作品におもしろみを感じるんですよね。先ほどの『GOLDEN LUCKY』なんてまさにソレで、簡単にいうとバカなんです(笑)。妙な残酷描写もありますが、絵は抜群にポップですし、ぜひ『GOLDEN LUCKY』も読んでいただいて、一人でも多くファンが増えて欲しいです(笑)。
――それでは最後に、安元さんが思う“読書の魅力”を聞かせていただけますでしょうか。
安元 僕にとって読書の最大の魅力は、頭をからっぽにできて、なおかつ新しい情報を入れることもできるところだと思います。ぐるぐる考えているときに一度頭をリセットすることも大事だし、僕はしゃべる仕事ですから、単純に新しい言葉やフレーズをインプットすることも大切で、読書はそのどちらも可能なんです。読書をすることで、自分の中でいろいろバランスを取っている部分があると思うので、僕にとって絶対に必要なことです。
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弱虫ペダル
作者:渡辺航 出版社:秋田書店
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ママチャリで激坂を登り、秋葉原通い、往復90km!! アニメにゲーム、ガシャポンフィギュアを愛する高校生・小野田坂道、驚異の激コギ!!ワクワクの本格高校自転車ロードレース巨編!!
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火の鳥
作者:手塚治虫 出版社:手塚プロダクション
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火の山にすむという不死鳥--火の鳥!!その生き血を飲んだ者は、永遠の命を得られるという……!!不死身の鳥をめぐって壮大な宇宙ロマンが展開する手塚漫画の代表傑作!!大波乱続出の黎明編第1弾、堂々大登場!!
SPECIAL PUSH!!
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鬼灯の冷徹
作者:江口夏実 出版社:講談社
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あの世には天国と地獄がある。地獄は八大地獄と八寒地獄の二つに分かれ、さらに二百七十二の細かい部署に分かれている。そんな広大な地獄で、膨大な仕事をサラリとこなす鬼神。それが閻魔大王第一補佐官・鬼灯(ほおずき)である! ――人にとっての地獄。それは鬼にとっての日常なのです。ドSな補佐官・鬼灯に、上司の閻魔大王は涙、涙……そんな日常です。冷徹でドSな鬼灯とその他大勢のわりかし楽しげ地獄DAYS!
【放送局】
MBS 毎週木曜 25:35~/TBS 毎週金曜 25:55~
CBC 毎週金曜 26:35~/BS-TBS 毎週土曜 24:00~
*バンダイチャンネルなどでも配信中!
【STAFF】
原作:江口夏実(講談社「モーニング」連載)
監督・AR演出:鏑木ひろ
副監督:長沼範裕
シリーズ構成・設定制作:後藤みどり
キャラクターデザイン・総作画監督:加藤寛崇
アニメーション制作:WIT STUDIO
【CAST】
鬼灯:安元洋貴
閻魔大王:長嶝高士
桃太郎:平川大輔
シロ:小林由美子
柿助:後藤ヒロキ
ルリオ:松山鷹志
唐瓜:柿原徹也
茄子:青山桐子
芥子:種﨑敦美
お香:喜多村英梨
ピーチ・マキ:上坂すみれ
白澤:遊佐浩二
【公式サイト】
http://hozukino-reitetsu.com/
安元洋貴さんからのメッセージ
僕は小説もコミックも読みますけど、すごく偏っていると思うんですね。『三国志』にまつわるものを軒並み持っているとか、好きなものをとことん突き詰めてしまうほうなので。そんな人間でもまだまだ知らないものがある、まだまだ読みたいもの、読まねばならないものがあります。本が持つ可能性というのは本当にすさまじいと思いますので、これからもずっと楽しんでいきたいと思います。
そして、僕のように偏った人間でも万人に薦められると思うのが、『鬼灯の冷徹』です。ぜひコミックを読んでもらいたいですし、アニメもコミックの世界をうまく反映してかなりおもしろく仕上がっていますので、願わくばコミックともどもアニメも見ていただけるとうれしいです。